がんのサポーティブケア
医療・健康・介護のコラム
がん患者の心を支える精神腫瘍学 「予期せぬ(していない)知らせ」を患者に伝える際のコミュニケーションを学ぶ
国立がん研究センター東病院で患者のケアに
――帰国後、柏の国立がんセンター東病院ではどんなことに取り組まれたのですか。
東病院は92年の開院時から、病院の方針としてすべての患者に告知をはじめていたのですが、それに伴って、様々な問題も起こっていました。慈恵医大柏病院の精神科の先生が患者をサポートしていたのですが、広島大の医局の教授の専門がうつ病だったということもあり、そこへ私が赴任することになりました。
当時は精神科も、統合失調症の告知をしていない時代でした。精神科もがん医療も、同じような問題を抱えているんだなと感じました。
――指針も何もないところからスタートしたわけですね。
そうです。Quality of Life(生命、生活の質)を医療者なりに患者さんに「何かいいことを」と考えて、展望風呂をつくったり、景色が見えるようにベランダを全開放にしたりしていましたが、自殺者が相次ぎ、閉めざるを得ませんでした。
その辺りからですね。結局、Quality of Lifeを左右する原因の一部を作っているのは、医療者にもあるのではないかと考えるようになったのは。
――がんの告知の仕方に問題があったということでしょうか。
患者さんがいつ告知を受けたのかさえも気付かないほど何回かの診察を通じて少しずつ状況を伝える医師がいる一方で、すべての検査結果がそろったところで、一度にガツンと「がん」と告げる医師もいました。後者のやり方は少なくとも、患者さんのうつの一因になっているのではないか、ということです。
年間の新規がん患者さんの数を考えると、問題の解決のためには、精神腫瘍医を何人増やしてもダメで、がん患者と接するすべての医師にコミュニケーションの方法を学んでもらうしかないと思うに至りました。
患者とのコミュニケーションのあり方の研修を開始
――コミュニケーションの研修とはどんなものですか。
内容は、精神科医であれば研修の初期に学ぶような基本的なカウンセリングのスキルです。研修を受けるがん専門医4人、指導役に精神科医や心療内科医や心理士、ペアを組む相方には緩和ケア医や腫瘍医の計6人でグループをつくり、模擬患者さんにも加わっていただいて、ロールプレイを2日間にわたって行います。
研修を受けたことで実際に信頼関係が深まり、患者さんのうつの程度が低かったという研究結果を、2014年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)の雑誌で報告しました。17年にはASCOのガイドラインにも採用され、現在の標準的なコミュニケーション研修方法の一つとなっています。
2007年のがん対策基本法施行を受けて国が10年間、無料で実施し、約1600人が受講しました。現在は、学会に引き継がれ有料で実施しています。 このほか、3時間で行う簡易バージョンの研修は無料で引き続き拠点病院で受けられるようになっており、これまで約14万人が受講しています。
――研修を開始した頃と現在では、内容的に違いはありますか。
最初の研修会は、早期胃がんの告知がテーマでした。それが最近では、進行がんの告知や、抗がん剤を中止して緩和ケアに移行する時の告知、亡くなる前に点滴をやめる時の告知と、難易度が増しています。
ただ、医療者と違って患者さんにとって最も大変なのは、最初にがんを知らされる告知の時ですので、そこが原点だと思います。
――告知の際の最も大切なポイントは何でしょうか。
患者さんに悪いニュースを受け止めるための準備を徐々にしていただくのが、まさにコミュニケーションスキルです。そして、受け止めた後に、この先生とならやっていけると前向きな気持ちになってもらうことが大切です。
患者さんが少しでも納得してがん治療を受けていただけるよう、治療の前に医師に尋ねたい質問を整理した冊子を作成しました。 ぜひご活用ください。https://ganjoho.jp/public/dia_tre/diagnosis/question_prompt_sheet.html
がんと向き合うことは、自分の生活、そして人生そのものと向き合うことです。ぜひ、質問や希望を医師に伝えてください。
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