今井一彰「はじめよう上流医療 あいうべ体操で元気な体」
医療・健康・介護のコラム
脳だって、もっと栄養がほしい 酸素供給に影響する呼吸の仕方
今は家庭でも換気に気を配り、密な状態にならないように室内の二酸化炭素濃度を測る機械を活用しているところもありますね。換気していないと、空気中の二酸化炭素濃度はあっという間に上限の基準に達してビックリします。人間の体は結構、二酸化炭素を排出しているようで、これが生きている証しだと教えられます。この二酸化炭素は、体内のあちこちで酸素が消費された時に生まれます。
私たちの脳がしっかりと働くためにはエネルギーが必要で、通常はブドウ糖(グルコース)のみが利用されます。低血糖症で意識消失が起こるのは、ブドウ糖を利用できなくなるから。その脳に、ブドウ糖以上に必要なエネルギーが酸素です。様々な原因で酸素の供給が少しでも止まってしまうと、短時間のうちに意識を失い、最悪の場合は死に至ります。
脳は低血糖にも低酸素にも弱いデリケートな臓器です。体にとって良い食事を摂取するように、脳に必要な酸素をきちんと届けることは、仕事のパフォーマンスを左右します。
この酸素が体内に入ってくる鼻の穴は、大きく三つのタイプに分けられます。私はまん丸タイプですが、同じ日本人でもいろんな形があります。マスク生活ではなかなか鼻の穴を観察することはありませんが、どれが一番、鼻呼吸しやすいでしょう? 答えは最後に。
AIが脳波で口呼吸、鼻呼吸を識別
今、AI(人工知能)の能力はすさまじい勢いで伸びており、将棋や囲碁といった世界では、もうすでに人間が太刀打ちできないほどです。
医学の分野でも、特に画像診断ではAIが活躍していて、私たちの健康チェックに役立っています。AIは様々な学習方法により、膨大な量のデータを読み込み、処理していきます。これを脳波の診断に用いて、口と鼻での呼吸の違いで脳の活動性を評価した研究が発表されました(※)。
脳にたくさんの作業をさせるような負荷をかけると、酸素消費量が高まります。鼻呼吸では最高で1分間に35リットルほどの空気を交換できますが、口呼吸ではそれが100リットル以上にもなります。そんなにたくさんの空気を吸えるのであれば、脳にもかなり酸素が行き渡りそうですが、運動もしていない状態で換気量だけが増えると、血液中の二酸化炭素が減るため、逆に脳への血流が減り、気を失ったりすることがあります。これがいわゆる、過換気症候群です。たくさん息を吸ったり吐いたりしさえすればよい、というわけではないのです。
脳への酸素供給が減る口呼吸
AIに鼻呼吸と口呼吸時の脳波を学習させると、ほぼ100%、今の呼吸状態を見分けられるようになりました。つまり脳波、なかでも特にγ波の成分を見ると、鼻呼吸か口呼吸かが見分けがつくというのです。さらにここから、口呼吸の状態で管(カニューラ)から口へ酸素を投与するとどうなるか研究者は実験してみました。すると、AIは口呼吸なのか鼻呼吸なのか、呼吸法の区別がつかなくなりました。
これは酸素が脳へ供給されるようになった証拠ではないか、と研究者は結論づけています。口呼吸では肺における血液の酸素化が妨げられたり、人間の呼吸器の構造による非効率的な換気が原因となったりして血中酸素が下がると思っていましたが、この研究では末梢動脈血の酸素飽和度に変化はなかったとされています。つまり脳以外への酸素供給量には変化がない、ということです。なぜ脳への酸素供給が減るのか、そのメカニズムはいまだにはっきりとした答えが出ていません。
鼻呼吸は今すぐできる脳への栄養補給
しっかりと栄養を取ることは、子どもの健全な発達に必要なことは言うまでもありませんが、脳へ酸素を送り込むことも同じことです。これまでは、口呼吸は酸素の供給が低下することにより、脳のパフォーマンスをゆっくりと低下させるとされていました。
しかし、今回の研究で、短時間であっても脳機能を悪化させることがわかりました。この研究では、最終的に学校や職場に酸素を供給する機械を設置することが良いと結論づけているのですが、私は「鼻呼吸にすれば良い。無料だし」と単純に思っちゃいました。皆さんはいかがですか。
慢性鼻炎などで鼻が詰まって、口呼吸になってしまうという人もいるでしょう。抗アレルギー薬などの服用をためらわずに、鼻の通りをよくすることを目指してください。鼻閉解消のツボ押しや鼻うがいなどのセルフケアもこれまでお伝えしてきましたから、参考にしてください。
さて、鼻の穴のタイプと呼吸のしやすさについてのクイズですが、答えは全部同じ。鼻の形が違っても呼吸機能には影響を及ぼしません。ご安心ください。(今井一彰 みらいクリニック院長・内科医)
※参考文献 Identification of Breathing Patterns through EEG Signal Analysis Using Machine Learning Brain Sci. 2021, Mar; 11(3): 293
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