今井一彰「はじめよう上流医療 あいうべ体操で元気な体」
医療・健康・介護のコラム
えっ、あごの梅干ししわは口呼吸のサイン?
口をそっと閉じてみてください。そして自分の下あごを触ってください。ツルンとしていたら大丈夫。もしデコボコと筋肉の緊張が手に伝わってくるようなら、口呼吸の可能性があります。
わかりにくい方は鏡で確認してください。この部分を頤(オトガイ)といい、梅干し状のしわを作るのが頤筋。ふだん口を開けていたり、口を閉じておくのがつらかったりする人は口閉時、この筋肉がより強く収縮して梅干し状のしわになります。通常は嚥下動作でも目立つことがないのですが、異常嚥下の際には、やはり、しわとなって現れます。ですから、口呼吸かどうかの診療には、こんなちょっとした筋肉の使い方もヒントにして視診を行っています。
出っ歯は口呼吸の可能性
Rさんは30代の医師。「だんだん前歯が出てくるようになった」と、私の友人の歯科医に相談に見えました。かみ合わせを見てみると、上の歯と下の歯がかみ合わず、すき間があります。これを 開咬 といいます。これでは食物を前歯でかみちぎることができず、 咀嚼 もきちんとできなくなります。
Rさんには肩こりや歯ぎしり、いびきといった症状もありましたが、なによりSLE(全身性ループスエリテマトーデス)という自己免疫疾患に、ITP(免疫性血小板減少症)が合併していました。これらの病気は“原因不明”とされていますが、こんな時は、どこかに慢性扁桃炎や口腔内疾患など原病巣が隠れているのではないかと考えながら診察します。病巣疾患である可能性が高いからです。そして、さらにその原病巣を作る原因となるのが口呼吸なのです。
口呼吸診療に慣れた医師・歯科医師であれば、すぐにこの状態は慢性的口呼吸だとわかるのですが、さて、どうしてこんなかみ合わせになってしまうのでしょうか。
これには舌の位置が深く関係します。舌はふだん口を閉じている時は上あご、つまり口の天井部分にペタリとくっついています。飲み込む時も舌が上あごをぐっと押しつけるようにして嚥下反射が進んでいきます。子どもの時には、この力によって上あごが左右に広がり、大人の歯が生えるスペースができていくと同時に鼻の容積が広がり、より鼻呼吸しやすくなります。
ところが舌の力が弱かったり、舌の使い方に変な癖(これを舌癖といいます)があったりすると上あごが広がらず、鼻の容積も増えないため、口呼吸に陥ってしまいます。舌癖には様々ありますが、飲み込む時に舌を前に出す癖があると、このような開咬になってしまいます。いわゆる出っ歯ですね。本来は唇が“押さえ”の役目をしているので、出っ歯にならずに済むのですが、口を閉じることを意識しなければ、どんどん出っ歯になっていくのです。
1 / 2
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。