文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

社会

社会

本名も知らないけれど…オンライン里親、養護施設出身者の進学後押し「夢あきらめないで」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 虐待や貧困などの理由で児童養護施設で育った学生と、支援する大人たちをインターネットでつなぐ取り組みを大阪市の財団が今春始めた。全国的にも珍しい取り組みで、互いに本名や連絡先は知らされないが、財団が仲介して「仕送り」を届け、オンラインで交流する。児童養護施設は原則18歳で自立を求められ、経済的な理由で進学を断念するケースが多い。4月から2人の支援が始まり、学生らは感謝の思いを胸に勉強に励んでいる。(浅野友美)

大阪の財団仲介

 

本名も知らないけれど…オンライン里親、養護施設出身者の進学後押し「夢あきらめないで」

大学の教科書を手に「元気な姿を見せて厚意に応えたい」と話す津田七海さん(5月、入所していた児童養護施設で)

 「入学式も終わり、授業も始まりました。結構忙しいです」。近畿地方の児童養護施設を今春退所した大学1年津田七海さん(19)(仮名)は今年4月、パソコンの画面越しに初対面した「里親」たちに、少し緊張気味に近況を報告した。

id=20210605-249-OYT1I50047,rev=6,headline=false,link=true,float=left,lineFeed=true

 津田さんは、小学校低学年の頃に母親が病死し、父親とも疎遠に。預けられた祖父母も高齢になり、5年生の時に施設に入所した。

 高校時代はバレーボール部のマネジャーを務め、部員のけがの手当てなどをする中で理学療法士を志すようになった。大学などへの進学が必要だが、祖父母に援助を求めることは難しかった。アルバイトをして貯金し、奨学金も申し込んだが、高校卒業後は施設を退所する必要があり、一人暮らしするには足りなかったという。

 悩んでいた時、施設の職員に紹介されたのが、一般財団法人「みらいこども財団」(大阪市北区)が今春に始めた「オンライン里親」という取り組みだった。

 

ズームで交流

 

 取り組みでは、施設に推薦された進学希望の子どもの経歴や学習計画などを財団のホームページで紹介し、「里親」を募集する。財団の面接で選ばれた「里親」たちは、大学や専門学校などを卒業するまで1人あたり毎月1万円を仕送りする。子ども側の資金計画によって「里親」の数を決める。

 互いの名前や連絡先は非公表だが、財団が学生の生活状況を月1回支援者にメールで報告。3か月に1度は、ウェブ会議システム「 Zoomズーム 」を使って交流する。

 今年3月に第1弾として、津田さんら2人への支援を募集し、それぞれ10人の支援者が集まった。2人には毎月10万円が仕送りされる。

 津田さんは現在、コンビニ店でアルバイトをしながら大学に通っている。「『施設の子は大学に行けなくても仕方ない』と思われるのが悔しかった。見ず知らずの私を助けてくれるみなさんに元気な姿を見せ続けたい」と目を輝かせる。

コロナで苦境

 

 財団は2015年の設立以降、全国の児童養護施設に生活必需品などを寄付してきた。

 コロナ禍でアルバイトで生計を立てていた施設出身者が、飲食店の休業で収入が途絶え、「モヤシだけで1日をしのいでいる」という声が財団に寄せられた。食品を送るなどしたが、継続的に支援するため、今回の取り組みを始めたという。

 「里親」は関東から九州まで各地におり、中には過去に虐待を受けた経験がある人もいる。子ども4人を育ててきたさいたま市の会社経営者の男性(48)は「意欲や学力があるのに、生い立ちや経済的な理由で夢をあきらめてきた子どもを見てきた。少しでも力になれればと思った」と話す。

 財団では近く別の施設出身者2人への支援を募集する予定で、順次拡大していく。谷山 昌栄まさひで 代表理事(56)は「学費が払えず、退学を余儀なくされる施設出身者もいる。頼れる人がいない若者に手をさしのべてほしい」と呼びかけている。

 

大学進学 2%どまり

 

 児童養護施設は、児童福祉法に基づき、家庭での養育が難しい原則18歳未満の子どもが過ごす。全国に約600か所あり、約2万4900人が入所している。

 同施設や里親家庭など社会的養護経験者は「ケアリーバー」と呼ばれ、多くが施設などを出た後、周囲に頼れる大人がおらず、厳しい状況に置かれている。

 厚生労働省が今年4月に公表した初の実態調査では、退所直後の進路は、就職・就労が53・5%、進学・通学は36・3%。最終学歴は、高校が64%、中学が15・4%で、大学は2%にとどまった。文部科学省によると、全体の大学進学率は昨春で54・4%だった。

 現在の生活について「収入より支出の方が多い(赤字)」と回答したのは22・9%。「過去1年間に病院や歯科などを受診できなかった」のは20・4%に上り、うち66・7%が「お金がかかるから」を理由に挙げた。

 施設出身者については、2017年度から自立が難しい場合は原則22歳の年度末まで施設で過ごせるようになった。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

社会の一覧を見る

最新記事