今井一彰「はじめよう上流医療 あいうべ体操で元気な体」
医療・健康・介護のコラム
お金も道具も要らない世界一簡単な健康法は?
私の講演では、口をポカンとしている人々の写真を見せます。これが、口呼吸の特徴的なサインだからです。講演を聞いた人たちはその後、口々に「人の口元ばかり、気になるようになった」「思った以上に、口を開けている人が多い」などと教えてくれます。また、「小さい頃、親から『口を閉じなさい』と口うるさく言われていたことを覚えています」と、当時を懐かしむ人もいます。
常時マスク着用の世の中で、人の口元を見る機会が激減しました。そんなこともあって、歯列矯正を希望する人が増えているということです。歯並びなどが気になっていた人たちからすると絶好の機会です。
口を閉じること
世の中にはいろんな健康法があります。それだけ不健康な人が多い証拠なのかもしれません。さて、世界一簡単な健康法はどんなことだと思いますか?
私は「口を閉じること」だと思っています。口を閉じれば、唾液も乾燥しないですし、 歯垢 も付きにくくなり、何と言っても鼻呼吸になります。子どもの口呼吸状態を調べるのに「口を30秒間閉じて、楽に呼吸ができる」という項目を設けた研究もあるくらいなのです。
「えぇっ? たかが口を開けているだけでしょ?」と軽く考えて高をくくっていると、痛い目に遭うかもしれません。
全国調査 3割の子どもがお口ポカン
2021年1月、新潟大や鹿児島大などのチームが子どもの口唇閉鎖不全(つまり口ポカンの状態)を調査した研究結果が発表されました。全国の歯科医院を受診した3~12歳の子ども3399人の生活習慣や健康状態について、保護者へのアンケートが行われました。
その結果、口をポカンと開けている子どもが全体の約3割に達して、その“有病率”は年齢が上がるごとに増えていき、12歳では約4割となりました。さらに口ポカンは、口臭やクチャクチャ食べ(クチャラー)、出っ歯といった口の問題だけでなく、口呼吸につながる鼻づまりとも関係していました。この傾向には地域差はなく、全国でほぼ一定の割合で口ポカンが観察されたのはとても興味深いことです。
これは保護者によるアンケート調査です。過去に行われた研究結果からは、歯科や耳鼻咽喉科といった専門家が診察すれば、口ポカンの割合はさらに増えることが予測されます。さらに2014年の調査ですから、コロナ禍でのマスク着用が広がった2020年以降は、この割合がさらに増加していることも懸念されます。
子どもたちの健康問題に直結する口ポカン。これは 口腔 の悪癖と呼ばれ、今では「口腔機能発達不全症」という病名までついているのです。長期にわたる口腔機能発達不全症は、歯並びだけでなく、顔が上下に長くなったり、近視が増えたり、発音が悪くなったり、小児の睡眠時無呼吸症候群につながったりと、まるで良いことがありません。
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