Dr.イワケンの「感染症のリアル」
医療・健康・介護のコラム
東京五輪が影響? 新型コロナ 日本がワクチン接種に「本気を出した」ワケ
高齢者への接種拡大で重症患者を抑制の可能性
これまで、どちらかというとワクチンには消極的だった日本が、急に「ワクチンどんどん打て」に路線変更したのは、間違いなく東京オリンピック・パラリンピックの開催が絡んでいるとぼくは思います。
7月に開幕する予定のオリンピック。しかし、日本のコロナは繰り返し延長される緊急事態宣言にもかかわらず、思うように沈静化していません。国内外から開催を危ぶむ意見が多く出されています。安全にオリンピックを開催する切り札が、ワクチンだと政府は気づいたのでしょう。
オリンピック開催までに、日本全体にワクチンを普及させて集団免疫を獲得するのは、ちょっと不可能でしょう。しかし、リスクグループである高齢者へのワクチン接種を普及させて、重症化する患者を減らすことは可能かもしれません。
重症患者がいなくなれば、医療が逼迫(ひっぱく)することもなくなります。であれば、多少の感染者が日本で発生しても「安全にオリンピックを開催できる」。このような計算はなりたちます。
ポリオ生ワクチン緊急輸入以来の英断か
その計算が妥当なものかは、ぼくは知りません。そのような動機が純粋なものなのか、不純なものかもここでは議論しません。しかし、歴史上、日本が予防接種にここまで前のめりになり、その普及やスピードアップに全力を注ぐ姿を、ぼくは一度も見たことがありません。
戦後まもなく予防接種法ができて以来、ここまで前のめりになったのは、1960年代に旧ソ連からポリオ生ワクチンを緊急輸入したときだけではないでしょうか。
日本には予防接種法を根拠とした予防接種提供の「仕組み」があります。しかし、日本には仕組みはあるけど、ビジョンがない。ま、ワクチンに限らず、日本の感染症政策のほとんどは、「仕組みはあれど、ビジョンなし」なのですが(いわゆる「感染症法」がその典型です)。
よって、ワクチン提供のシステムは回っているのだけれど、そのワクチンが国民にどのような成果をもたらしたのかには政治家も官僚も無関心でした。「ここに仕組みがあるのだから、自主的に、自己責任で利用してね」と言うだけでした。
いわゆる子宮頸(けい)がんワクチン(HPVワクチン)はその最たるもので、定期接種なんだけど積極的勧奨はしないという、「ちょっと何言ってるか分からない」状態でした。時々、麻疹や風疹の予防接種の呼びかけにマジンガーZやシティーハンターなど、我々昭和の世代を胸キュンさせるポスターを出すなどして「やった感」を出すだけだったのです。
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語呂がいいので、そろそろタイガーマスクも接種の呼びかけに使われるんじゃないですかね? 良くも悪くも日本は同調圧力が強すぎる社会です。そういう何も変わらない社会というのは理屈ではなく、官僚社会になって長い日本の国民と国家に精神的に合理的なのかもしれません。もちろん、そのことは良いことばかりでもありません。流れが滞れば水はよどみます。ワクチンの若年者の心筋炎のニュースなんかも出ましたが、今後の先行国での流れによっては、停止するくらいの気持ちと準備を持って推進するというプログラムが、積極接種希望者の動きを推進することになると思います。人体だけでなく、役人や大衆の意志にも解剖生理の理屈は応用可能なのではないかと思います。しょせん、人間なんてエゴの塊ですから。
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