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糖尿病患者の「重症低血糖」 重い後遺症の危険…点鼻粉末剤で速やかに対応
糖尿病を患う人の血糖値が下がりすぎると、意識を失い周囲の手助けが必要な状態になることがあります。「重症低血糖」とよばれ、重い後遺症を残すおそれがあるため、病院への救急搬送や注射薬の使用など適切な対処が必要です。昨年からは点鼻粉末剤が登場し、速やかに対応しやすくなりました。(大沢奈穂)
突然意識遠のく
低血糖は、食事の量が少なかったり、食事の時間が遅れたりすると起こりやすく、冷や汗や震え、 動悸 などの症状が表れます。
低血糖の状態を繰り返すと、血糖を上げて体を守る機能が低下し、こうした症状が出なくなることがあります。低血糖に気づかぬまま血糖値が下がり続けると、突然意識が遠のいたり、けいれんしたりします。これが重症低血糖です。
主に注意が必要な人は、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の分泌を促す薬を飲んでいる人や、インスリン注射で治療をしている糖尿病患者です。
食後を含めた正常な血糖値(ミリ・グラム/デシ・リットル)は一般的に70以上140未満です。70より低いと低血糖と呼ばれます。重症低血糖の明確な基準はありませんが、50を下回ると中枢神経がエネルギー不足となり、重症低血糖に陥りやすくなります。対応が遅れると、脳機能障害など深刻な後遺症が残る場合や、死に至ることもあります。
日本糖尿病学会が2017年に発表した推計によると、重症低血糖で救急搬送される患者は年間約2万件に上ります。主な要因には▽いつもより食事の量が少ない、食べる時間が遅れた▽薬の量が多すぎた――などが挙げられています。
宝塚市立病院(兵庫県)の糖尿病内科主任部長・難波光義さんは「血糖値を上げないようにと糖尿病患者が厳格に管理しすぎることが、低血糖の誘因になることもあります。いつもより食事時間が遅くなりそうな時には、甘い菓子やジュースで回避する努力をしてほしい」と助言しています。
注射より使いやすく
重症低血糖には、どう対処すればいいのでしょうか。これまでは病院に救急搬送され、点滴などの処置を受けるケースが中心でした。また、患者が日頃から注射器と血糖値を上げるホルモン「グルカゴン」を携帯し、家族などが注射する方法もありました。しかし、医療従事者以外の人が冷静に対応するのは困難だと指摘されています。
そこで、点鼻粉末剤「バクスミー」に公的医療保険が認められ、昨年10月からは重症低血糖が懸念される患者に使えるようになりました。粉末状のグルカゴンを患者の鼻の穴に噴霧することで、意識の回復につなげられます。
小学2年生の頃から1型糖尿病を患う東京都内の女性会社員(40)は、今年3月末に自宅で意識がもうろうとし、妹の手助けでこの点鼻粉末剤を使いました。女性は「家族でも使いやすく助かります。重症低血糖のことを考えると遠出をする時に不安でしたが、今後は安心して出かけられます」と喜んでいます。
東京慈恵会医科大教授の西村理明さんは「糖尿病患者は、治療内容によっては低血糖が避けられない場合があります。点鼻粉末剤は、いざという時に極めて効果的です」と話しています。
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