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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

ヒトヘルペスウイルスと目…ウイルスの怖さを改めて認識

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ヒトヘルペスウイルスと目…ウイルスの怖さを改めて認識

 新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)で、我々人類はウイルスの怖さと 執拗(しつよう) さを改めて認識しています。

 2億年も前から存在しているとされるヘルペスウイルスも、今なお、人類に多大な影響を与えます。約90%の感染が不顕性(症状が出ない)感染である「ヒトヘルペスウイルス」は、通常、単純ヘルペスウイルス1型、同2型、3型の水痘・帯状 疱疹(ほうしん) ウイルスを始め8型まであります。皮膚、粘膜、目、脳、性器、さらには全身に及ぶ感染となり、しつこくて、時に重篤な症状を引き起こす場合があります。

 今回は、眼球への影響についてみておきたいと思います。

 皮膚、粘膜に感染しやすいウイルスですので、当然目の表面である角膜や結膜にも感染します。しかし、問題になるのは、そういう初感染ではなく、一度感染して症状が治まっても、角結膜に分布する 三叉(さんさ) 神経の枝から入り、神経節といわれる感覚神経細胞が集合する膨らみ部分に潜伏。体の抵抗力が落ちると角結膜に出てきて悪さをし、眼表面に痛み、充血を起こします。しかも、再発を繰り返し、治療が遅れると透明の角膜が次第に混濁することになります。

 目への影響は、眼表面に限りません。目の中に炎症が起きる重篤な「ぶどう膜炎」の原因にもなります。ぶどう膜とは虹彩、毛様体、脈絡膜を総称したもので、眼球の外側を覆っている角膜、強膜と、最内層を作っている網膜との間にある「中膜」とよばれる部位を構成しています。ここにウイルスが侵入して病気を起こすと、その内層にある網膜にもすぐに影響し、重大でしばしば治りにくい視力障害に発展します。

 現在ヒトヘルペスウイルスと関係が深いぶどう膜炎は2種類あります。これらの病気の発見はいずれも日本人医師でした。

 一つは「急性網膜 壊死(えし) 」とよばれる、ほとんどが片目に起こる劇症型のものです。実は、この病気は1971年に日本で「桐沢型ぶどう膜炎」として世界に先駆けて報告されていましたが、今ではその用語を知る人は少なくなってしまいました。のちに、ヒトヘルペスウイルス1型から3型のどのウイルスでも眼球内に入ると感染し、この病気を起こすことがわかったのです。病名にある「壊死」とは細胞が一気に死ぬことを意味しており、以前は、ほとんどのケースが助かりませんでした。最近はウイルスを発見する手法が進歩し、抗ヘルペスウイルス薬も進歩しているので、早期発見して治療すれば多くは失明を防ぐことができます。

 もう一つは「原田病(フォークト・小柳・原田病ともいう)」です。こちらはぶどう膜や、時には全身の色素を含む細胞をターゲットに発症する自己免疫疾患です。自己免疫疾患とは、自分の体を免疫が間違って攻撃してしまう病気のことです。両目に起こり、網膜 剥離(はくり) を起こして治りにくくなる、あるいは再発しやすくなることがあります。最近の研究では、ヘルペスウイルス3型や4型(エプスタイン・バール・ウイルスともいう)や他のウイルスの存在が証明されることがあり、直接的感染ではないがウイルスの存在が自己免疫反応のメカニズムに関係していることが示唆されています。

 ウイルスは正体が目に見えないだけに、いつの時代も侮れないものだとつくづく思います。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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