ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
「家族を殺した」と自分を責め続けた高齢者…私が「諦めない福祉」を追求するようになったわけ
私が、ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」をつくった目的は、「諦めない福祉」という理念を追求するためです。
介護が必要な状態になったために、旅行を諦めている高齢者は、私たちが介護して旅行に行けるようにしよう。おいしい物を食べることを諦めている高齢者は、私たちが介護して食べられるようにしよう。それが私の法人の方針でした。そこから、ペットと暮らすことを諦めている高齢者は、私たちが介護してペットと暮らせるようにしよう、と考えるのは自然な流れだったといえます。
ただし、高齢者とペットの問題に目を向けるようになったのには、ある直接のきっかけがありました。佐野孝彦さん(仮名、80歳代後半)と愛犬のミニチュアダックスフントのレオ君の悲惨な運命に出会ったことです。
身寄りのない佐野さんにとって、レオ君は家族同様、いや家族以上の存在でした。私の法人が運営する在宅介護施設「さくらの里」は、10年以上にわたって佐野さんを支援しており、仲むつまじい姿をずっと見てきました。自宅を何度も訪れたことがあり、互いに寄り添い、支え合うように暮らしている様子は、感動的ですらありました。
しかし、佐野さんは年を取るにつれて体が弱ってきました。自力で歩くのも難しくなると、一人で暮らすのはもう限界でした。「さくらの里山科」は当時まだできておらず、とある老人ホームに入ることを決意したのですが、そこにレオ君は連れていけませんでした。
佐野さんは必死にレオ君のもらい手を探しますが、高齢のレオ君を引き取ってくれる人は見つかりませんでした。老人ホームに入る日、知人に頼んで、レオ君を保健所に連れて行ってもらいました。それしかできなかったのです。
その時、佐野さんは大粒の涙を流し、声を上げて泣いていたそうです。 慟哭 はやむことがありませんでした。老人ホームに入居した1か月後に、うちのスタッフがお見舞いに伺いましたが、やはり泣いていたそうです。
「俺は自分の家族を殺してしまったんだ」。そう言って自分を責め続け、2か月後も、3か月後も、泣いて暮らしていました。そして半年後、生きる気力をなくしたように息を引き取ってしまいます。
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とてもつらいお話です。私自身は現在、猫を3匹飼っております。飼い猫が人生の支えであり、猫たちの存在に助けられたことは数知れません。自分自身はまだ30歳代前半ですが、一緒に暮らしてきた家族同然のペットと、人生の最後で離れ離れになることは、想像するだけで胸が詰まる思いです。確かに高齢者が寿命の長い生き物(犬や猫や鳥など)を無秩序に何匹も飼い始めたら、無責任だと感じるかもしれません。しかし、人生の最後に、残りの人生を支えてくれる伴侶のような存在のペットを飼いたいと願うことは、そんなにもぜいたくな願いなのだろうか? とも感じます。願わくば、高齢者の方が年齢を理由にペットを飼い始めることを諦めることがないような、余裕のある社会になってくれることを願っています。「さくらの里山科」のような、素晴らしい取り組みの施設が全国で増えていきますよう、願っております。
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