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ココロブルーに効く話 小山文彦

医療・健康・介護のコラム

【Track14】ライブハウスでの演奏で「荷下ろしうつ」から救われた50歳男性

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 このコロナ禍において、私たちは、感染予防のためにソーシャルディスタンス(social distance)を保ち、3密を避け、可能な限りの自粛に努めています。それが自分や家族の身を守り、感染拡大を抑えるために大切だということは、今や社会通念ともいえるでしょう。しかし、政府や自治体からの要請とはいえ、様々なシーンで制限がかかることで、「離れていること」が長く続き、それぞれの人にとって心のよりどころのような場所、仲間と集まれる「箱」のような場所が乏しくなっていることも現実です。音楽活動も大事にしている私にとっても、これはとても寂しいことです。今回は、まだ、新型コロナ感染症が 蔓延(まんえん) する以前の事例ですが、家族を失い、心の空白と孤独感に (さいな) まれていた男性が、あるライブハウスとの出会いをきっかけに、自身のココロブルー(うつ)を克服していくまでのエピソードです。

母親の死が「心の空白」を

【Track14】ライブハウスでの演奏で「荷下ろしうつ」から救われた50歳男性

 サガラさん(50歳、男性)は、ある団体の職員です。私が健康講演会に講師として招かれた時に、事務連絡の担当として、日程の調整などにおいても電話やメールでとても礼儀正しく対応してくれた方の一人でした。物腰はやわらかく、まじめな総務職の方です。講演会当日の司会もしていただきましたが、人前でのスピーチはあまり得意ではないようで、講師紹介の時に、ずいぶん緊張していた様子でした。

 2時間近くの講演会が終わり、私が会場を去るまでの道すがら、数分でしたが、サガラさんと私は初めて雑談をしました。お互いにお礼を交わし、その団体が置かれている状況などをうかがった後、サガラさんは、その日の私の講演テーマについてこう切り出したのです。

 「今日のお話の中で、睡眠不足とうつの関係、よくわかりました。先生には、また、個人的にご相談したいのですが……」

 私は、「メールでもいただければ、お引き受けします」と答えましたが、もしかしたら司会における緊張ぶりは、睡眠不足などが理由で心身の緊張が強まっていたためかな……などと思いながら帰路につきました。

 サガラさんから、相談の予約についてメールが届いたのは、すぐ翌日のことでした。その団体とは、健康相談に毎月訪れる契約をしていたので、翌週には再び彼とお会いして、「個人的な相談」をお聞きすることができました。

 サガラさんは、隣県の実家に高齢の母親がいて、毎週末に訪れて身の回りのことや病院受診などの世話をしてきたそうです。しかし、2か月前に、母親は脳血管障害で他界されました。ずっと独身のまま、仕事の傍ら、老いた母親の世話をするのが、彼にとっては大事なライフワークでした。しかし、突然に母親の死が訪れ、葬儀など諸々の気ぜわしさが片付いてしまうと、ぽっかりと「心に空白ができた」ように感じたそうです。

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小山 文彦(こやま・ふみひこ)

 東邦大学医療センター産業精神保健職場復帰支援センター長・教授。広島県出身。1991年、徳島大医学部卒。岡山大病院、独立行政法人労働者健康安全機構などを経て、2016年から現職。著書に「ココロブルーと脳ブルー 知っておきたい科学としてのメンタルヘルス」「精神科医の話の聴き方10のセオリー」などがある。19年にはシンガーソング・ライターとしてアルバム「Young At Heart!」を発表した。

 今年5月14日には、新型コロナの時代に伝えたいメッセージを込めた 新曲「リンゴの赤」 をリリースした。

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