大橋博樹「かかりつけ医のお仕事~家族を診る専門医~」
医療・健康・介護のコラム
コロナ陽性の50代男性、自宅で悪化したが入院拒否……理由は母の介護
新型コロナウイルスの第4波によって、各地で感染者が増えてきました。入院できる病床がひっ迫し、入院が必要な状態でも自宅や宿泊施設での療養を余儀なくされているケースも増えてきています。自宅療養者へのケアでは、急変をいかに早く察知して、適切な処置や入院につなげることが重要ですが、実はもう一つ大切な視点があります。これは私の地域で実際に起こった例です。

イラスト:赤田咲子
濃厚接触者の母親の預け先が見つからない
50代の男性が80代のお母さんと2人暮らしをしていました。お母さんは認知症があるものの、ヘルパー等の介護保険のサービスを利用することもなく、穏やかに過ごしていました。ある日、この息子さんが新型コロナ感染症にかかってしまいました。当初は症状も軽度であり、自宅療養していましたが、発症3日後に急に呼吸が苦しくなりました。貸し出されたパルスオキシメーター(血中の酸素濃度を測る機器)の値も悪くなり、電話で対応した保健所の職員はすぐに入院先を探し、救急車を自宅に向かわせました。
幸い受け入れ先も見つかり、保健所の職員もほっとしていたのですが、救急隊から思わぬ連絡が入ってきました。本人が入院を拒否しているというのです。自分が入院したら、母親を見る人がいない、置いて行けないというのがその理由でした。普段であれば、お母さんを一時的にショートステイなどで介護することが可能です。しかし、お母さんは濃厚接触者ということになるため、施設で受け入れることは、かなり難しい状況でした。
母親を訪問看護ステーションが引き受けて、息子は無事入院
市の職員が近隣のヘルパー事業所に問い合わせましたが、やはり濃厚接触者を新規で訪問してくれる事業所を見つけることはできませんでした。数時間後、深夜になって、市内の訪問看護ステーションの看護師が、健康管理も含めてお母さんのケアを引き受けることとなり、息子さんも入院することができました。
自宅療養者のケアは、本人のケアのみならず、同居者に高齢者や障がい者等、介護が必要な方がいる場合は、その方のケアも考えなければならないのです。今までは、そこまで目が届かなかったのが正直なところでしたが、流行が長期間になり、より広い視点を持ったケアが必要となってきました。
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