産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
デジタルが苦手な40歳代後半“ぶら下がり社員”がいよいよ追い込まれていく
国はIT社会の実現に向けデジタル庁を創設し、組織の縦割りを排し、国全体のIT化を主導するとしています。デジタル化といえば企業先行で進んでいますが、加速する必要があるでしょう。私は現在、大企業6社の精神科産業医をしていますが、このニュースを見聞し、中高年社員のつらそうな表情が真っ先に浮かんできました。

イラスト 赤田咲子
中高年にぶら下がり社員が増加
なぜって? 企業現場では、若者は新しいデジタル機器やソフトを使いこなしていますが、私の印象では、中高年者の4割くらいから、「ついていくのが精いっぱい」という声が聞こえてくるからです。精神科では「テクノ(デジタル機器操作の)不安」と呼ばれています。
企業の上層部からは、「言い方は悪いが、グローバル競争の時代に対応できない中高年の“ぶら下がり社員”が増えている」という声も聞きます。事例を紹介して対処法を説明します。
44歳の財務部経理一課副参事(課長級)の田所太郎さん(仮名)が産業医の相談室を訪れました。
経理ソフトの操作が身につかない
私 : 産業医の夏目です。ストレスがたまっているようですね。
田所さん: わかりますか。
私 :表情が硬いからね。
田所さん:経理課の副参事をしています。財務は社内で最もデジタル化が進んでいるのですが、前の職場は営業だったので苦労しています。
私 :営業から財務へ。仕事の内容が大きく変わったのですね。
田所さん:そうです。営業とは違う種類の数字に目がくらみそうです。
私 :それで。
田所さん:経理の数字は書類を読んで部下の話を聞けば理解できます。
私 :そうか。
田所さん:苦労しているのは、最新の経理ソフトの操作です。国内だけではなく海外企業と連携したソフト操作が難しい。もともと機械は苦手な方です。
私 :操作がうまくできない?
田所さん:そうです。若手社員に聞きながらやっています。簡単なものはできますが、複雑になるとダメで……。
私 :難しい?
田所さん:そうです。初めての経理で、基礎知識がない点もありますが、基本操作ができても、応用が必要なものになると、ちょっと。
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“中高年のぶら下がり社員”は高度経済成長期、バブル期、ポストバブル期、いつの時代にも存在した。日本型企業は働き手を“コストの安い労働力”の観点からしか見ないから、若年期はコストに見合うが、中高年になると見合わないと考える。コストの分だけパフォーマンスが上がるような訓練をするかといえば、新入社員研修以来、放ったらかし。それで“ぶら下がり”などと言うのは経営者側の怠慢、傲慢、無能以外の何物でもない。デジタル能力については、中高年だけの問題ではない。今の20代、30代は自宅にPCを所有しない者が多く、持っている(使える)のはスマホだけという人も多いのだ。では、経営者はそういう社員を今後どう活用していくのか。それを説かねば意味がない。人口減少社会において、これまでのように百年一日のごとく“雇っては放ったらかし”の放漫経営をすれば、“社会にぶら下がり経営者”と呼ばれるのがオチである。
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