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山中龍宏「子どもを守る」

医療・健康・介護のコラム

「怖くて読めない」と言われても…子どもの悲惨な事故を詳細に伝えるのはなぜか

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「怖くて読めない」と言われても…子どもの悲惨な事故を詳細に伝えるのはなぜか

イラスト:高橋まや

 これまでの連載では、子どもの事故について、誤飲、窒息、転倒など事故の種類別に、実際に起こった重症度が高い事例を取り上げ、その発生状況について詳しく紹介してきました。連載を始めてから1年以上がたち、ときどき、記事へのコメントを見る機会がありますが、それらを大まかに分類してみると、

  記事に同感するもの: こわいですね。うちでも似たようなことがあり、毎日、子どもを叱っています。事故の予防はむずかしいですね。

  自分の経験談: 私が小さいころ、同じ事故に遭った。親には本当に感謝している。

  事故の予防について: 子どもから絶対に目を離さないようにすべきだ。教育が必要で、何度でも子どもにダメと言うしかない。

  事故の原因について: しつけ、教育ができていれば事故は起きない。親の不注意だ。親に問題がある。子どもがいなくても危ないことくらいわかる。

 などがありました。その他、「書いてあるとおりだが、量がありすぎて疲れてしまった」「怖くなって、途中で読むのをやめた」「数十年に1回しか起きていないような事例を出して注意しろはやり過ぎ」、医療費を示したときには「お金の問題ではない」といったコメントがありました。

詳しく書かなければ伝わらないこと

 まず、「量がありすぎて疲れてしまった」という声にお答えしましょう。架空の事例を挙げてみます。

 「〇月〇日、午前8時30分頃、○○小学校の校門付近で、小学2年男児が転倒し、肩からかけていた水筒が腹部に当たりました。医療機関に搬送されましたが、肝臓が破裂しており、〇時間後に死亡しました。警察が詳しい状況を調べています」

 これが、メディアで報道される事故死の情報です。

 一方、医師は、医学系の雑誌に症例報告として診断や治療経過などを投稿しますが、発生状況については触れません。

 警察は現場検証をして詳しい情報を聴取し、犯罪性の有無を判断します。犯罪性がないとされても、その情報が公開されることはありません。

 誰も「予防」を検討せず、この件は終わりになり、また同じような事故死が起こります。同じことが繰り返されているのです。上記のような情報を聞いた多くの人は、「運が悪かった」と思うだけでしょう。

 「小学2年生が転んで、下げていた水筒がおなかに当たって腹部外傷で死亡した」ではなく、「雨が降っていて、傘をさしているので前方がよく見えなかった。校門の付近は坂になっていて路面は凸凹している。子どもがはいている靴の裏はすり減っていて滑りやすかった。始業時間に間に合わなそうだったから、走っていて前方に転んだ。肩にかけていた水筒は体の前方につり下がっていて、そこに子どもが倒れこんだ。水筒のふたの部分で上腹部を強打した」という記載なら、傷害の発生メカニズムがよくわかります。簡単に言うと、私は、事故が発生したときの状況を、動画としても作ることができるように書いているので、文章が長くなってしまうのです。

 こういう記載であれば、「雨の日、傘でよく見えないなら、傘の前方の一部を透き通ったビニールにして見えるようにする」「小学校の校門付近の転びやすい、あるいは滑りやすい部分は改修する」「雨の日に滑りやすい靴は履かないようにする」「水筒の形状を検討する」「水筒を肩から下げずに運ぶ方法を考える」など、いろいろと予防策を考えることができます。

人ごとでは予防につながらない

 「恐ろしくなって最後まで読めない」というコメントもありました。これまで聞いた事故のニュースは人ごとで、自分の子どもには起こらないと思っていたから怖くなかったのでしょう。「怖い」というコメントは、現場の状況を具体的に思い描くことができ、「自分の子どもにも起こるかもしれない」「予防しなければ」と思ってもらえたということだと思います。このコラムは、恐怖感を与えるために書いているのではなく、予防策があることを伝え、具体的な予防策がないものについては、それを解決できる立場の人に対して、「予防策を考えてください」と訴えているのです。
 「こんな事故は数十年に1回しか起きていない」というコメントもありました。

  事例1 :2015年6月、7歳。1か月半入院し、入院医療費は490万円。
  事例2 :2020年11月、6歳。14日間入院し、入院医療費は91万円。

 この2例とも、登校中につまずいて転倒し、肩にかけていた水筒が腹部に当たり、 膵臓(すいぞう) に損傷を受けています。数十年に1回と思っておられるようですが、日本小児科学会に報告されただけでも、数年に1度は、このような重症例が発生しています。同じような状況で軽度の傷害ですんでいる例は、数十倍以上あると思います。

 有名な「ハインリッヒの法則」では、重大事故1件の背後には29件の軽微な事故があり、その背景には300件の異常(ヒヤリ・ハット)が存在するとされています。いつ、どこで、同じ事故が起こってもおかしくないのです。

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yamanaka-tatsuhiro_prof

山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。産業技術総合研究所人工知能研究センター外来研究員、キッズデザイン賞副審査委員長、内閣府教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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1件 のコメント

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経験ありです。

油揚げ

同じ事故に遭った派です。過去に数回、ボール状のあめ玉で窒息しかけました。幼児期に窒息しかけた際は、たまたま親が隣にいたので、背中を殴打したり、逆...

同じ事故に遭った派です。過去に数回、ボール状のあめ玉で窒息しかけました。幼児期に窒息しかけた際は、たまたま親が隣にいたので、背中を殴打したり、逆立ちさせるなどして取り出し、大事には至りませんでした。最後に窒息しかけたのは、お恥ずかしながら19歳くらい。大学の教室内で隣、前後に友人が座っていましたが、誰も異変に気付くことはありませんでした。ほぼ成人だったので、かろうじて飲み下すことができましたが、詰まっている時は死ぬかと思いました。早食いでパンを詰まらせ亡くなった少年の件を読んで、幼児でなく、周りに人がいても死んでいたかもしれないのだ、改めて気付きました。ただ幼児期と比べ、この記憶は鮮明で、今でもボール状のあめ玉が怖く、平らなものを選んでいます。我々はどういうものが危険か知っておく必要があり、企業はそれに基づき商品を変更していくべきだと思います。

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