文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

知りたい!

医療・健康・介護のニュース・解説

「それなら辞めて」と言われ…医療的ケア児の母 就労に小1の壁

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 先天的な病気などで人工呼吸器やたんの吸引などが日常的に必要な医療的ケア児。介助の負担が集中しがちな母親にとって、仕事の継続には多くの壁があるのが実情だ。就学を機に、放課後の預け先がないといった理由で働きづらくなる「小1の壁」に悩む家庭も少なくない。(粂文野)

「それなら辞めて」

「それなら辞めて」と言われ…医療的ケア児の母 就労に小1の壁

 東京都内に住む40歳代の女性は昨春、ひとりで育てる長男(8)が特別支援学校に入学する時に仕事を辞めた。長男はたんの吸引や胃ろうによる栄養管理など医療的なケアが欠かせない。学校の看護師がケアに慣れるまで、しばらくは親の付き添いが必要と言われたためだ。

 それまでは、障害児専門の保育園に預けられていたので働けていた。だが介護休暇などが取れない非正規雇用の立場。職場に事情を伝えると「それなら辞めてください」と言われ、仕事をあきらめるしかなかった。

 当初は看護師が同乗するケア児専用のバスが不足し、通学に使えなかった。体の不自由な長男を抱えてタクシーで送迎し、毎回、往復5000円以上かかった。昨夏に学校の近くに引っ越すまで通学を断念する日もあった。

 学校での待機や送迎の付き添いも必要なくなったのは昨年12月になってからだ。

 仕事を再開したが、新型コロナウイルスの影響で勤務日が減り、貯金を切り崩す生活が続く。放課後の預け先も毎日確保できるわけではなく、副業のパートの仕事探しにも苦戦する。

 女性は「働きたい、働かなければならない事情は同じなのに、医療的ケアや重い障害のある子がいると働けず、困窮するのはおかしい。週5日働ける仕組みを整備してほしい」と話す。

自治体の対応に差

 文部科学省の2019年の調査では、医療的ケア児は特別支援学校や小中高校などに9845人が在籍する。多くの学校は通学の際、一定期間、または長期の親の付き添いを求めている。

 東京都は今年度から、特別支援学校での付き添い期間の短縮に向けたモデル事業に取り組むが、全国的には自治体の対応にばらつきがある。

 放課後の預け先も課題となる。障害児向けの「放課後等デイサービス(放デイ)」で、医療的ケア児を預かる施設は少ないためだ。

 東京都世田谷区の会社員松岡理絵さん(31)は、医療的ケアが必要な長男(5)が来春、特別支援学校に入学する。近隣の「放デイ」5か所を見学したが、どこも満員で空きが出るかも不透明。「不確定なことばかりで働き続けられるか不安」と話す。

 育休中に住んでいた自治体では、長男を預けられる保育園はないと言われた。新規に開園する障害児専門の保育園の近くに引っ越して入園でき、復職したが、疲弊して休職した時期もある。

 「ウイングス医療的ケア児などのがんばる子どもと家族を支える会」の本郷朋博代表は「保育園に預けられる親もまだ一握り。進学しても預け先は少なく、お母さんが仕事を辞めるなど、何かを諦めている」と指摘する。

 松岡さんらは昨秋、特別支援学校内に親の就労を支援する「放デイ」や学童保育を併設することなどを東京都知事に要望した。松岡さんは「社会とのつながりという意味でも仕事は大切。子どもに居場所があり、母親が就労を選択できる社会になってほしい」と話している。

「支援法案」国会に提出へ

 医療的ケア児は、厚生労働省の19年の推計で約2万人とされる。医療技術の進歩で救える命が増え、この10年で約2倍に増えた。

 この問題を巡っては、「医療的ケア児支援法案」が、今月中にも国会に提出される見込みだ。超党派の国会議員でつくる「永田町子ども未来会議」が議員立法でまとめた。

 法案では医療的ケア児について、「人工呼吸器による呼吸管理やたんの吸引が日常的に必要な児童」などと定義するほか、国や自治体に支援の責務があることを明記。各都道府県に「医療的ケア児支援センター」を設置し、相談に応じることなどを盛り込む。

 法案のまとめ役となり、自身も医療的ケアの必要な息子の母親である自民党の野田聖子・幹事長代行は「今は、子どもや家族が受けられる支援が地域によってばらばらだが、法律ができることで支援内容が平準化される契機になる」と意義を強調している。

◆支援法案の主なポイント

▽医療的ケア児でない児童と共に教育を受けられるよう配慮しつつ適切な支援を行う

▽国や自治体は支援施策を実施する責務を負う

▽居住地域にかかわらず等しく適切な支援を受けられるようにする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!の一覧を見る

最新記事