森本昌宏「痛みの医学事典」
医療・健康・介護のコラム
首や肩にうずくような鈍い痛み「筋・筋膜性疼痛症候群」 悪い姿勢とストレスも原因に
ペインクリニックを受診される患者さんに最も多く見られる痛みは、筋・筋膜性の異常が原因となっている「筋・筋膜性 疼痛 症候群」である。事実、この痛みが、全外来患者さんの30~85%を占めるとするデータがある。つまり、原因不明ないしは心因性とされる慢性痛の多くが、筋肉や筋膜での問題によって起こっているのだ。
筋・筋膜性疼痛症候群では、頭、首、肩、腰をはじめとして、全身に局所的な持続痛(うずくような鈍い痛み)を生じる。原因は多種多様である。外傷や手術後、炎症性疾患や 麻痺 性疾患の後遺症としてみられることが多いことからも、さまざまな基礎疾患が隠れている可能性がある。たとえば首の骨( 頸椎 )に異常があると後頸部から肩までの筋肉に、腰の骨(腰椎)では脊柱起立筋(背骨の両側にあり、背骨を反らせる)に二次的な緊張を引き起こすことで痛みを生み出しているのだ。もちろんストレスも大きく影響している。「肩の力を抜いて」なのである。
筋肉の緊張が原因
筋肉の緊張による局所の虚血(血流の滞り)や乳酸の蓄積が原因となっている。通常、筋肉は収縮、 弛緩 のサイクルを繰り返すことでその機能を保持しているが、血流の滞りによって血液が十分に供給されなかったり、そのサイクルが正常に回らなかったりすることで痛みが発生する。
筋肉の収縮時には乳酸が産生されるが、収縮が異常に持続すると乳酸が蓄積してしまい、アデノシン三リン酸(細胞のエネルギーの中心的役割を果たす物質)が消費されてアデノシン二リン酸(筋肉の硬直を起こす物質)が産生される。これによって筋肉が硬くなり、痛みの悪循環を引き起こすのである。
診断にあたっては、筋肉内に塊として触れるトリガーポイント(痛みの誘発点)を確認することが重要である。トリガーポイントには痛みを伝える 末梢 神経の先端(終末)が多く存在し、圧迫などの刺激によって関連する領域での痛みや筋肉のけいれんを誘発する。
これらの痛みには、筋肉からの異常な情報が脊髄に向かって過度に伝えられることが関係する。この異常な情報は、通常、脊髄に存在する痛みの制御機構によって処理されるが、本症候群ではその抑制機能が損なわれていることが確認されている。また、トリガーポイントは末梢神経終末の障害によっても発生すると考えられ、局所性のニューロパチー(末梢神経障害)として捉えられている。
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