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Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」

医療・健康・介護のコラム

「不眠」と「睡眠不足」は正反対。それぞれの対処法は…

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 こんにちは。精神科医で睡眠専門医の三島和夫です。睡眠と健康に関する皆さんからのご質問に、科学的見地からビシバシお答えします。

 「最近不眠でさ、すっかり寝不足だよ」

 こんな会話を耳にすることがあります。ただ、「不眠」と「寝不足(睡眠不足)」は全く正反対の睡眠問題です。今回はこの二つの違いについて解説します。

睡眠圧、そして覚醒圧とは

「不眠」と「睡眠不足」は正反対。それぞれの対処法は…

 不眠症と睡眠不足――。現代社会では二大睡眠問題と言えるでしょう。どちらも睡眠時間が短くなり、日中には眠気や 倦怠(けんたい) 感など体調が悪化するため、似たような睡眠問題と考えられがちです。冒頭のような表現がよく使われるのはそのためです。普段の会話で使うぶんには構いませんが、医学的には不眠症と睡眠不足は正反対の現象です。

 不眠症は「寝る時間があるのに、寝床に入ると眠れない」病気であるのに対して、睡眠不足は「寝床に入ればすぐに眠れるのに、寝る時間がない」ことで生じる問題です。睡眠不足は眠る力(睡眠圧、と呼びます)には問題がないので、寝床に行けば爆睡できます。一方、不眠症は異なります。睡眠時間が短くなる点は同じですが、眠気よりも目覚める力(覚醒圧)の方が強いため、寝つけなかったり、夜中に目覚めたりしてしまいます。

人間には「浅い睡眠」の時間も大事

 不眠症と睡眠不足の違いは検査結果にもはっきりと表れます。

 睡眠ポリグラフ検査(一晩中、脳波などを測って睡眠の長さや深さを客観的に測定する検査)を行うと、通常、不眠症の患者さんは深い睡眠(深いノンレム睡眠)が大幅に減っています。例えば、40代、50代の健康な方であれば、睡眠時間のうち深いノンレム睡眠は十数%を占めますが、慢性不眠症の患者さんでは、それがほとんど認められないこともあります。すなわち睡眠時間が短いだけではなく、睡眠が非常に浅くなっているのです。

 ところが同じ睡眠時間であっても、睡眠不足の方の睡眠は全く異なります。深い睡眠が逆に大幅に増加するのです。1日4、5時間しか眠らずに数日過ごしただけで、深いノンレム睡眠が30%以上、時には睡眠時間の半分近くまで増加することも珍しくありません。深いノンレム睡眠の比率が高まるのは、それが人間の脳の休息に大事なことであるため、睡眠時間が短くなっても覚醒するまで保たれるためと考えられています。その代わり、睡眠不足時には浅いノンレム睡眠やレム睡眠が削り取られてしまいます。

 「深い睡眠が多いのだから、多少睡眠時間が短くても良いではないか」というのは間違いです。脳の休息、記憶の定着、代謝や循環機能の回復、免疫機能の調節など心身の健康のために、睡眠の役割をしっかりと果たすには、浅いノンレム睡眠やレム睡眠も非常に大事であることが分かっているからです。その証拠に、いくら深いノンレム睡眠が保たれていても、全体の睡眠時間の不足は、さまざまな疾患のリスクを高めることが明らかになっています。

 不眠症と睡眠不足は、見かけ上は睡眠時間が短いという共通点があるのですが、症状や睡眠の特徴は全く異なることがお分かりいただけたと思います。不眠症には覚醒圧の高まりを抑えて、深い睡眠を取り戻す医学的な治療が必要です。一方で、睡眠不足には治療薬はありません。健康生活にとって睡眠は大事であることを理解し、自分自身でライフスタイルを改善する必要があります。両者の対処法も全く異なりますね。(三島和夫 精神科医)

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三島和夫(みしま・かずお)

秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授

 1987年、秋田大学医学部卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事。著書に『不眠症治療のパラダイムシフト』(編著、医薬ジャーナル社)、『やってはいけない眠り方』(青春新書プレイブックス)、『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(共著、日経BP社)などがある。

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