産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
買い物、ゲーム、SNS、若者の依存症は自己愛の満足、中高年は現実逃避

イラスト 赤田咲子
人が依存する対象は様々ですが、代表的なものにアルコール、薬物、ギャンブルがあります。このような特定の物質や行為・過程に対して、やめたくてもやめられない、ほどほどにできない状態を依存症と言います。依存症は大きく分けて2種類あります。「物質への依存」と「プロセスへの依存」です。物質依存症はアルコールや薬物といった精神に依存する物質を原因とする依存症状で、「プロセスへの依存」はギャンブルや買い物など特定の行為や過程に必要以上に熱中し、のめりこんでしまう症状のことを指します。
依存の心理構造には、世代間ギャップがあります。若者ならスマホ、ネット、ゲーム、買い物のような「プロセスへの依存」が多いのに比べ、中高年者では「アルコール依存」に代表される物質依存が多数を占める傾向にあります。そこで本稿では「買い物依存症」と「アルコール依存症」に限定し、私がメンタル系の産業医をしている会社に勤務する事務職、23歳の佐藤有里さん(仮名)と、50歳の営業課長代理、井坂太郎さん(同)の2事例を紹介するとともに、心理構造の違いを中心に説明します。
買った瞬間の幸福感で嫌なことを忘れる
有里さんは 憔悴 しきった状態で、相談室を訪れました。
産業医 :心配事があるのでしょうね?
有里さん:先生、助けてください。毎日、サラ金などからの督促に追われ、おびえる日々です。
産業医 :借金をしたのですね。
有里さん:私、買い物が好きです。ウインドショッピングだけでは満足できず、洋服や化粧品などを購入します。
産業医 :そうか。
有里さん:(一気に話す)はじめのうちは月に2~3万円以内でしたが、あこがれの先輩の由美さん(仮名)に誘われて、都心の高級店に行ったんです。雑誌などに載っている店ですから、舞い上がりました。ゴージャスな雰囲気で、洗練された店員さんが、付きっきりでお世話してくれます。夢見心地でした。
産業医 :大事に対応され、うれしかった。
有里さん:(嬉しい表情で)購入時にお店の人に大事にされ、リッチな気分になります。買った瞬間、幸福感で満たされます。嫌なことを忘れます。このような気分は会社や家では味わえません。
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