Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」
医療・健康・介護のコラム
「余命宣告はわざと短めにする」って本当ですか?

イラスト:さかいゆは
「あなたに残された命は○か月です」というセリフ、ドラマで見かけることはありますが、私自身はこのような言い方をしたことはありません。
腫瘍内科医として、これまでに多くの患者さんを 看取 ってきましたが、自分の患者さんがいつ旅立つかというのは、簡単に予測できるものではありません。「余命はわからない」というのが、最も正確な説明となります。もし、患者さんの運命が正確にわかるのであれば、その情報はお伝えした方がよいのかもしれませんが、神様でもない医者に、患者さんの運命を見通すことはできません。どのような経過をたどるのか、治療がどのような効果をもたらすのか、副作用がどうなのかも、正確には予測できないというのが医療というものです。想定外のこともたくさん起こりますし、急に状態が悪化することもあれば、奇跡と思えるような経過をたどる患者さんもおられます。
人生そのものがそうであるように、医療でも、確実な未来を言い当てることはできません。「医療の不確実性」という言い方をすることもあります。少なくとも、医者が神様のように運命を知っていて、その重大な事実を本人に「宣告」するという「余命宣告」のイメージは正しくありません。
SNSによく見かける「余命を過ぎても元気」
それでも、「余命宣告」を受けたという患者さんや家族のコメントは、SNSなどでもよく見かけます。宣告された余命を過ぎても元気にしている、というコメントもあります。宣告されたよりも余命が短かった、というコメントは出てきにくいこともあり、どちらかというと、「余命を短めに言われた」というコメントが目立ちます。
実際に、医療現場で、どのように「余命宣告」がなされているのかはわかりませんが、宣告された余命が、実際より短いこともあれば長いこともあるでしょう。「短めに言っておけば、それより長く生きたときに感謝してもらえる」「長めに言って、実際に短かったときに医療ミスと言われかねない」というような意識が、医者側にないとも言い切れませんが、そもそも、正確な余命宣告はできない、と理解するのがよさそうです。
正確なことはわからないとしても、自分がこの先どうなっていく可能性があるのか、ある程度知っておきたいという患者さんは多いでしょう。「医療の不確実性」の中で、今後の見通しをどのように伝えるか、というのが重要なポイントとなります。患者さんから、余命について聞かれたとき、私は、ある程度の幅を持って、可能性をお伝えしています。
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