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認知症×発達障害 岡崎家のトリプルケア

医療・健康・介護のコラム

まさかの小1息子だけコロナ陽性…家庭内隔離は「それ無理」の連続だった

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7歳児には通じない「社会的距離」

 こうして、たー君の自宅療養が始まりました。ところがというか、やっぱりというか、「おうちの中でもソーシャルディスタンスね!」と離れようとしても、「ボク、コロナで死んじゃうの?」と抱きつきながら質問を繰り返します。大人だって怖い未知のウイルスに感染したのだから、症状がなくても彼がどれだけ不安なのかがよくわかります。「大丈夫!」と抱きしめ返したい。でも、それが許されないのです。

 食事は静かに、向き合わずに食べる。感染者が最後に1人で入浴するように言われるも、たー君にとってお風呂は、おばあちゃんが亡くなった場所として強い恐怖心があるため、2人でマスクをして「苦しいね~」と言いながら入る。寝る時も隣り合う部屋のドアを開け放してそれぞれ布団を敷き、1人で寝てもらおうとしても「怖いよ~」と枕を持って私のいる部屋に来るのをなだめて戻す。何をするにももどかしい2日間を過ごし、私は再びPCR検査を受けました。結果は、やっぱりの「陽性」。

119番通報を親子で練習

 私の症状は味覚・嗅覚障害だけなので、親子で自宅療養することに。保健所からは「大人は容態が急変することがあるので、注意してください」と言われました。

 40度の高熱で呼吸困難になった入院前のヒロさんを見て「あんな状態になったら自分で電話はできない」と、たー君に「母ちゃんが父ちゃんみたいになったら、電話の119を押して、住所を伝えて!」と教え込み、救急車の呼び方を練習しました。

 電話の子機を握り「母ちゃんも入院したらボクはどうなるの?」と、不安そうな顔をするたー君。「たぶん、大丈夫……」としか返す言葉が見つからない自分の無力さに、たー君が寝た後、天国の母さんに「どうしたらいい?」と泣きついた夜もありました。

発達障害の特性に救われた

 唯一、救いだったのは、たー君の発達障害(自閉スペクトラム症)の特性が、自宅療養では長所になったことです。自分の興味があることをしているときは、まわりが一切見えなくなる様子に、いつもは「もう、いいかげんにして」と注意することもしばしばですが、この期間中は大好きな電車のDVDとおもちゃにどっぷりハマっている間、私も自分の時間をしばし持つことができました。

 それでも、子どもと2人っきり、家の中だけで過ごす10日間はキツかった……。療養期間の後半にもなると、お互いにストレスがたまり、親子ゲンカが増えるばかり。そんな中、ヒロさんが退院して家に戻ってきたのです。(岡崎杏里 ライター)

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認知症×発達障害 岡崎家のトリプルケア

岡崎杏里(おかざき・あんり)
 ライター、エッセイスト
 1975年生まれ。23歳で始まった認知症の父親の介護と、卵巣がんを患った母親の看病の日々をつづったエッセー&コミック『笑う介護。』(漫画・松本ぷりっつ、成美堂出版)や『みんなの認知症』(同)などの著書がある。2011年に結婚、13年に長男を出産。介護と育児の日々を送りながら、雑誌などで介護に関する記事の執筆を行う。岡崎家で日夜、生まれる面白エピソードを紹介するブログ「続・『笑う介護。』」も人気。

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日野あかね(ひの・あかね)
 漫画家
 北海道在住。2005年にステージ4の悪性リンパ腫と宣告された夫が、治療を受けて生還するまでを描いたコミックエッセー『のほほん亭主、がんになる。』(ぶんか社)を12年に出版。16年には、自宅で介護していた認知症の義母をみとった。現在は、レディースコミック『ほんとうに泣ける話』『家庭サスペンス』などでグルメ漫画を連載。看護師の資格を持ち、執筆の傍ら、グループホームで介護スタッフとして勤務している。

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