リングドクター・富家孝の「死を想え」
医療・健康・介護のコラム
「命の選別」が始まったコロナ緊急事態……高齢だから治療を諦めるよう求められたら!
「高齢なので諦めて」と病院から言われたが……
トリアージという最大の危機に直面した病院では、患者さんとその家族に治療を諦めるよう求めているという話を聞きました。近年、心肺停止など回復が望めない病態になったら、心肺蘇生をしないでほしいという意思を示す方も増えていますが、コロナで医療がひっ迫してしまった今、これを医療者側から求める局面に入っています。
私が聞いた例では、「もう高齢なので諦めてほしい」と、病院側から言われたというケースがありました。この方の父親は80代後半でしたが、新型コロナ感染が確認されて、あっという間に重症化しました。しかし、それまでは元気だったので、ご家族は治療を望んだと言います。
このように、どんなに高齢で持病があっても、「人工呼吸器の装着をお願いします」という患者さんとご家族は多いのです。その場合は、医療側は要望を聞かなければなりません。しかし、患者さんが増えているので全員の要望に対応するのは難しくなっています。
トリアージについて「考えたことがない」44%
東京大学医科学研究所が昨年12月に実施したインターネット調査によると、「ECMOの装着を必要とする患者数に対して台数が足りない場合、装着する患者の優先順位を決定するトリアージが行われる可能性」があることについて、「知らなかった・考えたことがなかった」という回答が44%もありました。
新型コロナ感染での死亡者の平均年齢は、80歳前後とされています。また、大半は心疾患、糖尿病などの基礎疾患をかかえていました。しかし、変異種が 蔓延 しだしてからは、若い人の発症例、重症化例も多くなりました。
ネットには、「高齢者は後回しにすべき」の声も
SNSや、ネット記事の書き込みを見ると、トリアージに関しては、さまざまな意見があります。人工呼吸器を着ける場合、誰を優先するかに関しては、「医療が逼迫しているのだから、先行きが短い高齢者は後回しにすべき」と言った声もみかけます。人の命はみな同じ、平等と言っても、選別が必要になった時にどうすればいいのか。ネット上の手前勝手な意見として片付けてすむ問題ではありません。
これまでに約1400人の死者が出ている大阪府では、多くの人が軽症・中等症病床で息を引き取っています。人工呼吸器がない、あるいは装着できたとしても十分な管理は難しい環境です。
生きることは人間の最大の使命です。「生きよう」という気持ちは大事です。しかし、医療がすべての患者の希望に対応することができなくなったら、一般に想定される残りの人生の長さで判断するしかない、高齢者である私はそう思っています。(富家孝 医師)
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