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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

新型コロナ ICUが満床で重症者も入院できず 患者が医療を受けられない 医療崩壊の真実

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悲惨さが市民に「見えにくい」感染症の怖さ

 では、神戸市はゴーストタウンのようにみんな沈鬱(ちんうつ)な空気に満たされ、人々は暗い顔をしているかというと、そんなことはありません。ほとんどの人はいつもの日常生活を、普通に過ごしているし、駅前は人でごった返しているし、買い物をしたり、デートをしたり、外食をしたりしています。

 だって、神戸市民150万人以上いますからね。西は垂水区から東は東灘区、北は北区まで、まあ広いんですよ、神戸市。

 そんななかで、1400人以上の人が病気で苦しんでいるのに病院にかかれず、自宅で苦しんでいたって、気づくわけがありません。日常生活にはなんの変化もないんです。

 神戸市のようなモダンな都市で1000人以上の人が病気で苦しんでいて病院にいけない。異常な事態だと思います。しかし、その悲惨さは、市民に共有されません。悲惨さは可視化されないからです。

 2016年の熊本地震で直接亡くなった方は50人、関連死を合わせて273人だそうです。神戸市で亡くなったコロナ感染者231人とどっこいどっこいですね。熊本県の人口は約175万人です。

 しかし、熊本地震の避難所をお手伝いに行ったときは、その悲惨さは肌で感じることができました。飛行機で熊本空港に降りる前には、街のあちこちがブルーシートで覆われた、被害の大きさを目に見ることができました。益城町ではひっくり返った家々やひび割れた道路、不安そうに避難所に身を寄せるたくさんの方々から、事の重大さを実感できたものです。

 そうしたことは、感染症では起きません。停電も断水も起きませんし、避難も必要ありません。阪神淡路大震災、東日本大震災、あるいは熊本地震などのように可視化でき、共感できるものがないのです。

 日本ではすでに60万人近くの方がコロナに感染し、1万人近くの方が亡くなっています。世界では300万人以上の方が、コロナのために命を落としました。

 過去の自然災害等を考えても、とてつもない数です。我々のような医療従事者はその死亡を目の当たりにしますが、一般の方にはほとんどその実態は伝わりません。

人々の移動が感染を広げ 医療崩壊を引き起こしている

 コロナ感染者の大多数は症状が軽いか、無症状です。「個人の体験」を根拠にすると、ほとんどの方にとって、コロナは「風邪のようなものだ」ということになります。そこが、最大の怖さなのです。多くの人に共有されない死の恐怖と脅威。そして、軽症、無症状の人たちはわりと長い期間、感染を拡大させます。

 世界中に感染が拡大し、日本ですべての都道府県にコロナの感染が広がるのは、感染者が元気だからです。元気なのがやばさなのです。コロナウイルスは空を飛びませんから、自力で東京から埼玉に感染を広げたりはしません。全部人が広げているんです。(ほぼ)人だけが、コロナをあちこちに広げている。高熱でしんどくて、家で寝ていることが多いインフルエンザではこんなに感染を広げられないのです。

 日本はこれまで、国民(正確には日本にいる人)すべてが、安心して医療サービスを受けられる皆保険制度を誇りにしていました。世界に自慢できる、素晴らしいシステムです。しかし、その前提がコロナのために崩れてきています。

 病気になって苦しいのに、病院に行けない、入院もできない。命の選別が容赦なく起きている、起きざるを得ない。

 医療崩壊というと医師や看護師がしんどい状況、とイメージされがちですが、本当にしんどいのは患者さんなのです。医療が崩壊するというのは、患者さんから医療サービスが取り上げられた状況を指すのです。健康な生活が基本的人権の前提であるのであれば、基本的人権すら奪われてしまうのが医療崩壊の状況です。

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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