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ソーシャルディスタンスで広がるのは「暗闇と静寂」…深まる盲ろう者の孤独 心の距離縮めて

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 「緊急事態」が「日常」になって1年余りになります。

 最初は違和感があった「ソーシャルディスタンス(社会的距離)」ですが、今では自然に人と距離を取るようになり、「新しい生活様式」にも少しずつ慣れてきました。

 でも、想像してください。

 もしも、目が見えず、耳も聞こえなかったら。

 コミュニケーションを手の感覚に頼る「盲ろう者」。人と距離を取った時、広がるのは暗闇と静寂です。

「心の距離」は縮められる

事業所の利用者と「触手話」で会話する中本さん(右)

 4年前、大阪市天王寺区に開設された全国初の盲ろう者向けグループホーム「ミッキーハウス」を取材しました。入所者のみなさんがコロナ禍の今をどう過ごしているのか気になり、会いに行きました。

 ハウスを運営するNPO法人「ヘレンケラー自立支援センター」理事長の中本謙次さん(68)は「外に出られない生活は孤独で、時間がとても長く感じます」と訴えます。

 中本さんは生まれつき耳が聞こえず、40歳を過ぎて視力も失いました。自立して高齢の両親を安心させようと、ハウス開設と同時に入所し、今年1月、前任者の退任に伴い、理事長に選ばれました。

 ハウスでは9人の盲ろう者が生活し、法人が運営する近くの事業所で、通所者21人とともに軽作業をしたり、クラブ活動をしたりしています。

 中本さんも阪神タイガースの応援で甲子園に足を運ぶなど活動的でした。手に触れながら手話をする「触手話」で通訳介助者に状況を教えてもらい、椅子の振動で盛り上がりを感じていたそうです。

 しかし、新型コロナウイルスの影響で、昨年3~6月は事業所の活動が休止となり、ハウスに閉じこもる日が続きました。介助者の派遣制限で、情報も入手できず、精神的に追い込まれました。

 今も外出は事業所に通う時ぐらい。以前は困った時に周囲の人が助けてくれましたが、誰も近寄らないようになりました。もちろん感染は怖いです。でも、中本さんは「触ってくれないと、周りにどれだけ人がいてもひとりぼっちです」と吐露します。

 事業所に通う藤原ひとみさん(65)はわずかに目が見え、補聴器で聞くこともできます。ですが、買い物の際、セルフサービスの精算機で支払いを求める店が増え、表示が見えず困っています。レジでもビニールシートに遮られ、店員の声が聞こえません。

 「コロナ前に戻ってほしい」

 その声は切実でした。

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 国内の盲ろう者は推計1万4000人。全国盲ろう者協会(東京)には、孤独を訴える相談が寄せられています。橋間信市事務局次長は「各地で介助者の派遣が制限されている」と危機感を募らせます。

 私がハウスを取材で訪ねた際、みなさんがとても喜んでくれました。それだけ他者とのつながりを求めているということかもしれません。

 25日に大阪府など4都府県に3度目の緊急事態宣言が発令され、距離が必要な世界は続きます。

 それでも、「心の距離」は縮めることができるはずです。誰も取り残されないよう、私たち一人一人が苦しむ人に思いを寄せる、そんな社会でありたいと思います。

今回の担当は

 浅野友美(あさの・ともみ) 大阪市を担当。最近は、都市制度を検証する連載「『大都市』考」を担当した。35歳。大阪府出身。

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