ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
猫の「祐介君」は虹の橋へ旅立ちました…大好きなお母さんの顔をまぶたに焼き付けて
私が経営する、ペットと一緒に暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」。入居者の後藤昌枝さん(仮名、70歳代)と同伴入居した愛猫の「祐介君」について、昨年夏、このコラムで紹介しました。その祐介君が今年3月、虹の橋に旅立ちました。15歳でした。
虹の橋とは、ペットを飼っている人の間では広く語られている伝説です。飼い主より先に死んだペットたちは、虹の橋のたもとで、楽しく遊びながら、飼い主さんを待っている。やがて飼い主と感動の再会を果たし、そこから二度と離れることなく一緒に暮らす――、と結ばれています。この伝説は死後の世界について語っていますが、宗教は一切関係なく、どこかの国や民族に起源となる話があるわけでもありません。20世紀に自然発生的に生まれたストーリーが、インターネットの普及により全世界に広がったとも言われています。
祐介君も今、虹の橋のたもとで幸せに暮らしながら、後藤さんのことを見守っていることでしょう。祐介君が、「さくらの里山科」で過ごしたのは7年半。生涯のちょうど半分にあたります。前半を後藤さんの自宅で過ごし、残り半分を「さくらの里山科」で過ごしたわけです。どちらも大切な我が家であったろうと思います。
猫は家につき、犬は人につく、と言われています。しかし猫を飼ったことがある人は、この俗説が必ずしも正しくないことを知っています。祐介君も、「さくらの里山科」にやってきたその日から、安心し、くつろいでいました。子猫の頃から7年半ずっと過ごした前の家を懐かしみ、新しい家で落ち着かない、というようなそぶりは全くありませんでした。大好きな後藤さんが一緒だったからだと思います。猫もしっかり人につくのですよ。
「さくらの里山科」の居室(完全個室制)には、洗面台が付いており、蛇口は手をかざすだけで水が出るタイプの自動水栓です。驚くべきことに、祐介君はすぐに自動水栓を使いこなすようになりました。水が飲みたくなると、洗面台に飛び乗り、ちょいちょいっと蛇口の前に前足を出すのです。水が出ると、おいしそうに飲んでいました。猫にはそんな順応性もあるのですね。もちろん、ちゃんとした水飲みも用意していましたよ、念のため。
ちなみに私は若いころ、一人暮らしをしていた時に猫を飼っていました。その猫が4歳の時、私の人生は少し慌ただしくなり、仮住まいを含めて3年間で4回引っ越しをしました。しかし、愛猫は常に落ち着いていました。どの家に引っ越した際も、好奇心いっぱいで家の中を探検するものの、すぐに安心し、くつろぐようになり、逃げ出すそぶりはありませんでした。祐介君にとって、後藤さんがいる所が自分の家であるように、私の愛猫にとっても、私がいるところが自分の家だったのだと思います。猫も人につくものだな、と実感しました。
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