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ヨミドクターメンバーズサロン

医療・健康・介護のコラム

高額な不妊治療を繰り返し1000万円以上使う人も…保険適用に高まる期待

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そもそも不妊とは? 

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藤田  四つの負担という言葉で、不妊治療をめぐる課題の全体像をわかりやすく説明していただきました。それでは、ここからはトークセッションに移りたいと思います。最初、基本的なことを確認したいと思います。まず、そもそも不妊とはどういう状態なのでしょうか。

松本  不妊というと、自分には関係ないと思われる方が多いと思うんですけれども、定義としては、結婚して1年間、定期的にちゃんと夫婦生活を持っているのにもかかわらず妊娠しないという場合は、ちょっと不妊を疑ったほうがいいと言われています。

 でも1年といっても、これは年齢が関係しまして、例えば女性の年齢が35歳以上の場合は、1年間も待たず、定期的に夫婦生活を持って半年間たっても妊娠しないなら病院に行ったほうがいいと言われているんです。

藤田  不妊の原因としては、加齢による卵子の老化が多いのでしょうか。

松本  それも大きな要因ではあると思いますが、必ずしも年齢が高いからとかではなくて、若い方も結構治療を受けていて、二極化していると言われています。

不妊の半数近くは男性にも原因

藤田  最近は男性不妊も話題になりますが、具体的にはどういうことでしょうか。

松本  例えば、精子がちょっと少ないですとか、その動いている精子が少ないとか、それから、精巣に精子はあるけれども、それがちゃんと出てこられないみたいに、いろんなケースがあると言われているようです。不妊の原因は、女性にあることが若干多いんですけれど、半分近くは男性にも原因があると言われています。

藤田  実際に不妊治療を受けることになると、どのようなステップで治療が進んでいくのでしょうか。

松本  病院に行ったら、まずは男性も女性も検査を受けます。そして特に問題がなければ、まずはタイミング療法ということで、排卵日をドクターに特定してもらい、夫婦生活のタイミングを取るということをします。それで様子を見て妊娠しないようなら、今度は人工授精と言って、男性の精子をきれいにして子宮の中に入れるという方法があります。

 それでもまだ妊娠しなければ、今度は精子だけじゃなくて、卵子も外に取り出し、体外で受精させて、受精卵を子宮に戻す体外受精という方法があります。

 さらに顕微授精というのもあります。体外受精の場合は、シャーレの中に卵子を入れて精子をふりかけ、受精を待つのですが、残念ながら受精しないこともあります。そこで、注射針のようなもので1匹の精子を卵の中に入れて受精させてから戻します。

 そんな順番で治療を進めることが、たぶんスタンダードなやり方だと思います。場合によっては、卵管が詰まっていて人工授精では難しいので体外受精から行うとか、精子がとても弱いか少ないので最初から顕微授精を行うということもあります。

多くの人が迷う病院選び

藤田  病院によって技術の差がありそうですね。具体的に、どの医療機関がいいのか、という相談も多いですか。

松本  病院はどこに行ったらいいか、迷う方が本当に多いです。どの病院がいいというような情報提供はしていませんが、「このホームページでこういった情報が得られます」というようなこととか、各クリニックについての情報の見方をお伝えしたりはしています。

藤田  日本は不妊治療大国といわれますが、全国にどのくらいの不妊治療施設があるのでしょうか。

松本  日本産婦人科医会に登録されている施設の数でいうと600ぐらいです。特に大都市にかたまっている感じは非常に受けますね。

藤田  松本さんが2月に コラム で紹介していましたが、不妊治療の助成を受けられる指定医療機関に対して厚生労働省が情報開示を求める方針とのニュースが最近ありました。

松本  これまでよくわからなかった医療機関の情報が、かなり開示されるっていうのはいいことだと思います。そもそも、今まではまったく開示についてレギュレーションがなかったんですけれども、厚生労働省がよくあそこまで踏み込んだなという気はしています。ただ残念ながら、肝心の治療成績の開示まではいってないのですが。

クリニックが出す数字の読み解きが難しい

藤田  現在でも各クリニックのホームページを見ますと、かなり膨大な情報が載っていて、治療成績を載せているところもありますね。

松本  その数字をなかなか読み切れないんです。数字の分母と分子が何なのかというところが、医療機関によってバラバラだったりしますので、一律に比べられなくて、読み解き方がすごく難しいと思うんですね。情報に対するリテラシーを、受け取る側が持つことがすごく求められているなと思います。

藤田  病院選びについて、どんな観点から考えるようにアドバイスされていますか。

松本  まずキャリアプランとして、どう考えているのかっていうのを確認させていただきます。子どもを持つことが喫緊のことなのか、それとも少し長いスパンで考えているのかというのは、すごく大事なことですね。

 通いやすい病院というのも大事です。例えば、会社の近くだから通いやすいと思うのか、それともドクターやスタッフの方がすごく優しいので通いやすいと思うのか、それとも料金が自分に合っているからとか、その人の価値観によって通いやすい病院というのも意味が違ってきます。

 もちろん、妊娠出産したいっていうのは最終的なゴールで、そのために自分自身がどんな治療を行いたいのか、というのがすごく大事なことで、その人の価値観もお聞きしながら、アドバイスさせていただきます。

藤田  治療がうまくいかなくて、転院する人も多いのではないですか。

松本  非常に多いです。2回、3回転院をしたという方はとても多いですし、7回、8回という方もいます。それはすごくもったいないことだなと思うんです。時間もかかりますし、エネルギーやお金もかかることです。前の病院と同じ検査をすることで費用がダブル、トリプルとかかってしまいます。できれば転院はしない方がいいです。

金銭感覚がまひしてしまう

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藤田  松本さんがお聞きした範囲で、多い方だと、不妊治療にどれくらい費用をかけているんでしょうか。

松本  1000万円台ですよね。それが1人や2人じゃないぐらい、私の周りには結構います。体外受精だと1回に50万程度かかり、それにいろんなオプションを付けたりとか、注射とか何かで、1回で100万円かかるところもあります。10回やれば1000万円。それがあながち、誇大とはいえなくて、たぶん不妊治療のことを知らない人が聞いたら目が飛び出るくらいの金額ですね。

 でも、治療していると感覚がまひしてしまうんです。例えばスーパーでは10円でも安いお豆腐を買おうとするのに、注射が1本1万円のものと2万円のものがあると、迷わず「効果が高いほうをお願いします」って言ってしまう。私自身、そういう時期がありました。貯金がどんどんなくなって、貯金残高を見るのはもう本当に胸が痛かったです。

仕事との両立は女性の体への負担が大きい

藤田  次に、仕事と治療の両立についてうかがいたいのですが、女性の場合、ホルモン剤の服用とか、採卵などで通院が増えます。体への負担はかなり大きいのでしょうか。

松本  やっぱり女性は病院に行く回数も増えますし、投薬も受けるので、女性にかかってくる負担というのがすごく大きいです。採卵した後は痛みが出たり、出血したりするケースもあり、体を休める必要もあるので、半日ぐらいは会社を休まないといけなくなります。

藤田  企業のサポート体制はいかがですか。

松本  進んできてはいると思います。でも残念ながら、それが広がっているかというと、あまり広がりは見せていないですね。例えば、私どものアンケートで「サポート制度がありますか」と聞くと、「ある」と答えたのはわずか6%です。

 その少ない6%の方に「サポート制度を使えましたか」って聞くと、4割の方は「使わなかった」「使おうとは思わない」と答えたんですよね。なぜかというと、制度が非常に使いにくい。例えば、制度上、1か月前に不妊治療休暇というのを申請することになっていると、1か月前には「通院日なんてわかりません」っていう話です。

 あるいは、その制度は正社員しか使えないとか、そういう声も聞こえてきています。せっかく作ってくださるんだったら、ぜひ、当事者の声を聞いて作っていただきたいですし、ブラッシュアップしていただきたいです。

治療がステップアップすると期待してしまう

藤田  心の負担という面では、松本さんも治療を繰り返して、なかなか思うようにいかない経験をされたと思います。どんなお気持ちだったでしょうか。

松本  筆舌に尽くしがたいという感じです。だんだん高度な治療にステップアップしていくんですけども、ステップアップした最初の治療でもう「妊娠した」と思うんですよね。ものすごく期待して、「今回は絶対大丈夫だ」と思ってしまうんです。

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 人工授精のときには妊娠を信じて疑わず、病院の帰りに書店の子育てコーナーで本を買い集めたりしていました。そして妊娠判定の日までは妊婦のつもりで過ごすんですけど、結局、妊娠していないことがわかり、ものすごく落ち込みます。

 自分の何がいけなかったのか、体を冷やしたのがいけなかったのかとか、あれを食べなかったからいけなかったのかしらと、自責の念に駆られます。

 それからは、「期待しすぎちゃいけない」と思いながらも、治療のたびに「今度は妊娠できた」っていう確信は抑えられません。体外受精で受精卵を体に戻したら、おなかの中に赤ちゃんがいる感覚で、男の子の場合、女の子の場合、双子だった場合まで考えて、赤ちゃんの名前を決めて、毎日、話しかけていました。

 私の場合、妊娠反応が出たこともあって、その時は天にも昇る気持ちだったんですけど、結局、初期流産してしまい、天国から地獄です。その悲しみと苦しみというのは、本当にもう言葉にできないです。昼間は仕事もして元気に過ごしていても、夜に台所で突然、涙があふれ出て号泣してしまうこともありました。

難しい治療のやめどき 立ち止まるところを決めておく

藤田  不妊治療もいつかは終わりが来ます。松本さんには「不妊治療のやめどき」という著書もありますが、どのようにやめどきを考えればいいでしょうか。

松本  難しい問題だと思うんです。不妊治療っていうのは、終わりを決めにくい治療なんです。変な話、頑張って卵が採れる可能性がある限り、いつまでも治療ができてしまう。日本の医療技術は非常に高いものがありますので、結局、自分自身で線引きしないと、いつまでも治療を繰り返してしまう。

 年齢もひとつの目安かもしれませんが、いくつになっても結構卵子が採れるという方もいらっしゃいますし、若いうちから卵子が育ちづらい方もいます。私の周りには、年齢で線引きした方もいますが、例えば病院を何軒変わって、それでも駄目だったらというように病院の数で決めた方もいました。それから金額ですよね。いくら使ったら、もうやめようと決めた方もいました。 

 ズルズルと続けてしまいがちな治療なので、いったん立ち止まるところを決めておくことを私はお勧めしています。例えば2年治療して駄目だったら、いったん考えましょう、みたいな踊り場を持つ。やめる、やめないはそこで話し合って、もう一回決めればいいと思うんです。いったん夫婦で話し合う場を決めておくということですね。

藤田  自分の精子、卵子で子どもができない場合、特別養子縁組や、第三者からの精子や卵子の提供という選択肢もあります。松本さんは、どうお考えですか。

松本  夫婦でしっかりと話し合って、しっかりとした情報提供もしてもらったのであれば、その選択っていうのは尊重されるべきだと思います。基本的に、家族を増やしたいという思いは、もう誰にでもあるものなので。実際、私も精子提供や卵子提供を受けて出産したという方の話を何人も聞いています。

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 ヨミドクターでは、第一線で活躍する医師や専門家、著名人など多彩な執筆陣のコラムを連載しています。「ヨミドクターメンバーズサロン」は、そのコラムニストらを講師に迎え、「今まさに知りたい」医療・健康のトピックを取り上げてお話しいただく講座企画です。

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