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母親が自殺、義父に虐待され…施設で育った早大生の描く将来 「18歳の自立」に進学の選択肢を

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 児童養護施設などで育った子どもたちは、原則、18歳で自立を求められる。経済的な理由で進学を諦める若者も多く、頼れる人がなく孤立してしまう場合もある。こうした状況を受け、各地の大学で「人生の選択肢を増やしてほしい」と入学枠を設けたり、生活を支援したりする取り組みが広がり始めた。(平井翔子)

施設の18歳 進学の選択肢を

新年度から始まった講義の教科書を読む飯田さん。「進学したことで、将来をじっくり考える時間ができた」と話す(東京都新宿区で)

奨学金・入学枠・生活費…大学側に支援の動き

 「経済的な不安がなく専門的な知識を学べ、頼れる先生や友達にも出会えた。将来、何がしたいのかをじっくり考える時間もできた」

 早稲田大社会科学部3年の飯田 芽生愛めいあ さん(21)は、児童養護施設や里親家庭など「社会的養護」の下で育った若者向けの支援制度を利用して学んでいる一人だ。

 同大が2017年度入試から新設した「 紺碧こんぺき の空奨学金」は4年間の授業料など学費を全額免除し、その間、最大月9万円を給付する。入試前の秋に応募書類などで選考されるが、正式に奨学生になるには一般入試や自己推薦入試で合格する必要がある。

 飯田さんは4歳で、母親を自殺で亡くした。再婚相手から虐待を受け、6歳の時に保護された。頼れる身内はおらず、児童養護施設で暮らした。

◎学びたいけど情報が…

 公的な支援を受けて進んだ高校での勉強や、全国の施設出身者との交流の中で、「大学に進学して社会問題を学びたい」との思いが強くなった。

 ただ、18歳で施設を出る先輩たちは、自立した生活を送るため就職するケースがほとんど。「就学支援についての情報がなく、大学について調べるのも簡単ではなかった。情報が得られないことで人生の選択肢が限られる状況だった」。高校2年の頃、先生や進学した施設出身者から同大などの支援制度のことを聞き、道が開けた。

 大学では国際関係学やメディア論を学ぶ。講義で得た情報発信についての知識を生かし、福祉を学ぶ学生や施設の職員らに自身の経験を語る活動にも取り組んでいる。

 入学前、貯金はほぼゼロ。今後の生活への備えや、経験を積むために、講義の合間にジューススタンドやNPO法人などでアルバイトに励む。チアダンスのサークルにも参加し、充実した学生生活を送っている。

 将来、ジャーナリストになって、貧困問題を取材する自分の姿を思い描く。「社会的養護の下で育った子どもたちが、多くの選択肢の中から自分の将来を決定できる未来のために、私なりに貢献するのが目標です」と笑顔で語る。

◎独力で自立難しい

 筑紫女学園大(福岡県)は人間科学部社会福祉コースの21年度の推薦入試で、児童養護施設で暮らす高校生などを対象とすることを明記した。出願はなかったものの、「来年度応募したい」と複数の問い合わせがあったという。

 社会福祉分野を専門とする教員が多いことを生かし、出身施設とも連携して個性に寄り添った学習・生活支援を目指す。公的な奨学金が拡充されていることを受け、こうした制度の活用について相談に乗るほか、卒業後の自立のための就職相談にも注力する。

 支援策づくりにかかわった大西良准教授(社会福祉学)は「施設出身者は若くして自立を求められるが、独力では難しい。同級生や、社会福祉に詳しい教職員が学習や就職活動で伴走できる強みがあると思っている」と話す。

貧困や虐待で…施設・里親家庭に4万5000人

多くは18歳で就職、進学断念や困窮も…「学び、相談の機会を」

 厚生労働省によると、貧困や虐待などにより親元で暮らせず、児童養護施設や里親家庭で育つ子どもらは約4万5000人(2018年10月時点)。支援の必要性が高い場合は22歳まで施設で暮らせるようになっているが、多くは18歳で巣立つ。若者支援の政策に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの家子直幸・主任研究員は「人生の選択肢を広げるためにも、社会的自立に必要な学びの機会や、相談できる場所が必要だ」と指摘する。

 「進学して教師になりたかったけれど、周りにそうした経歴の人がいないから話も聞けず、自信がなくて諦めた」。18歳で都内の児童養護施設を出て建設会社で働く男性(21)は話す。

 18年度の高卒者の大学進学率は52%だが、児童養護施設出身者に限ると14%。進学せず、就職した若者の支援も課題だ。

 男性は、大学に行っていたらと考えたり、同僚との雑談で育った環境についてごまかしたり、という日々で心身のバランスを崩し、休職した。将来の不安を抱えながら復職を目指しているという。

 都内の飲食店で働く女性(19)は「昨年2月に18歳になって施設を出てすぐに、コロナ禍の休業で収入がなくなった。施設にいた頃にアルバイトをしてためたお金を取り崩して乗り切った」と話す。

 児童養護施設出身者らを支援しているNPO法人ブリッジフォースマイルの担当者は「頼れる実家がないことで、困窮状態に陥ったり、孤独感を抱え込んだりしやすい。施設を出た後の暮らしや悩みなどを把握して、それぞれの状況に適した支援をする必要がある」と訴える。

 昨年12月、厚労省は児童養護施設出身者ら約2万人を対象に、進学や就職の状況や、困っていることを尋ねる全国規模の調査を初めて実施した。同省家庭福祉課の担当者は「結果を見て、施設を離れた後の孤立対策や、自立を支える支援策を検討したい」としている。

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