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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

がん患者も新型コロナワクチンを打った方がよいのでしょうか

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 新型コロナウイルスワクチンの話題は、ニュースでも毎日取り上げられていますので、皆さんの関心も高く、診察室でもこの質問を受けることが多くなってきました。

 「打てるようになったら、ぜひ打ってくださいね。がんの患者さんは特に打った方がよいですよ」

 というのが、私の基本的なお答えです。

がん患者も新型コロナウイルスワクチンを打った方がよいのでしょうか

イラスト:さかいゆは

世界中の人々が選択を迫られている

 「がんがあって、抗がん剤治療も受けている中で、ワクチンを打って大丈夫なのでしょうか」という不安の声もよく聞きます。ワクチン接種に伴う副反応の話も連日伝えられていますので、不安を抱くのも当然でしょう。打つべきなのかどうか、迷っている患者さんも多いようです。「ワクチンを打つかどうか」は、今まさに世界中の人々が選択を迫られているリアルな問いですが、このような問いと向き合い、自分で考えて、納得できる選択をするというのは、とても大事なことです。どんな医療行為にもプラス面とマイナス面があり、そのバランスを慎重に考えて受けるかどうかを決める必要がありますので、今、ワクチンを打つかどうかを考えることは、これからの医療との向き合い方を考える上でも役立つはずです。

 「ワクチンを打ちたくても、ワクチンにたどりつけない」という、深刻な問題もあります。日本では、医療従事者に続き、ようやく65歳以上の高齢者への接種が始まったところで、高齢者の次に予定されている、「65歳未満でがんなどの基礎疾患のある方」への接種が始まるのは、もう少し先になりそうです。この問題に対しては国を挙げて取り組むとして、ここでは、ワクチンを打てる状況となった際に、一人ひとりがどのように判断するかを考えたいと思います。

発症を95%減らすが、副反応はインフルエンザより強い

 まず、ワクチンを打つことのプラス面です。現在、日本で使われているのは、ファイザー社のワクチンですが、このワクチンの臨床試験では、接種することによって新型コロナウイルス感染症の発症を95%防げたとされています (1) 。イスラエルで実際に接種した60万人と接種していない60万人を比較した大規模な研究でも、発症を94%防げていたと報告されています (2) 。イスラエルでは国民の半数以上がワクチンの2回接種を終えていて、新規感染者数は確実に減っています。ワクチンを打つことで、自分が発症する確率を減らせるだけでなく、社会全体の感染を抑え込むことにつながるわけですから、プラス面は確実にあると言えます。

 ワクチンを打つことのマイナス面ですが、これは、「副反応」と言い換えられます。日本で先行して接種を受けた医療従事者約2万人の調査では、90%以上で接種部位の痛みがあったほか、1回目接種後で3%、2回目接種後で38%に37.5℃以上の発熱があったと報告されています (3) 。1回目よりも2回目の接種で副反応が多くみられており、2回目接種後の全身 倦怠(けんたい) 感(だるさ)は69%にみられました。副反応は若い方で多い傾向があり、2回目接種後の発熱がみられたのは、20歳代では50%だったのに対して、65歳以上では10%でした。

 私も接種を受けましたが、2回目接種の翌日に37.9℃の発熱があり、だるくてしばらく横になっていました。症状があったのは翌日だけでしたが、まわりの人たちの話を聞くと、これが平均的な経過だったようです。毎年打っているインフルエンザワクチンよりは、副反応は強いと言えそうです。

 接種直後には、アナフィラキシーと呼ばれるアレルギー反応が起きることもあり、接種後15分以上は接種会場で座って様子をみることになっています。これまで、数万人に1人程度でアナフィラキシーが起きているようです。接種に対する緊張感もあって、気分が悪くなったり、立ちくらみを起こしたりする方もいます。

 非常にまれなことではありますが、命にかかわるような重篤な副反応も起こりえます。因果関係はわかりませんが、接種を受けたあとに亡くなった方も報告されています。アストラゼネカ社のワクチンでは、100万人に1人程度の割合で、血栓による死亡が報告されています。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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