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あなたも加害者に?…柔軟剤などの「香害」で吐き気や頭痛 周囲に配慮を 

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 柔軟剤などに含まれる人工的な香りで、頭痛や吐き気などの体調不良を訴える人が相次いでいる。「香害(こうがい)」と呼ばれ、実態調査や啓発活動が進んでいる。(高梨忍)

「香害」 体調不良相次ぐ 柔軟剤などが引き金

香害に苦しむ女性。人が密集した場所では防毒マスクをつけることもある=久保敏郎撮影

 「嗅いだ瞬間から具合が悪くなります」

 香害に苦しむ福岡市の女性はそう打ち明ける。他人の体や服から漂ってくる柔軟剤や整髪料などの香りで吐き気や頭痛などが生じるため、新型コロナウイルスの流行前から、外出時はマスクを欠かさない。電車やバスなど人が密集する場所では、インターネットで購入した防毒マスクをつけることもあるが、完全には防げないという。自宅でも、窓を開けるとどこからか香りが流れ込むため換気できず、洗濯物は部屋干ししている。

 10年ほど前から香りによる体調不良に悩み、約5年前に化学物質過敏症と診断された。周囲に「あなたの香りが原因」とは言えず、症状を訴えても「気にしすぎ」「わがまま」などと言われることもあると悩む。

 化学物質過敏症を専門に扱う「そよ風クリニック」(東京)の宮田幹夫院長によると、かつては建材の化学物質が原因の「シックハウス症候群」が多かったが、近年、柔軟剤などの香料が引き金となるケースが増加。根本的な治療法はなく、体内に入る化学物質を減らして症状の改善を目指す。

 宮田院長は「香料を使った商品があふれ、誰でも発症の可能性がある。公共の場では強い人工香料を控えるなどの対策が必要」と訴える。

調査や啓発活動進む

  香害は専門医が少なく、医療機関でも「原因不明」とされることも多いため実態がわかりにくい。そのため近年、被害調査や啓発活動が行われている。

 化学物質過敏症支援センター(横浜市)など7団体でつくる「香害をなくす連絡会」は、2019年12月~昨年3月に香り付き製品の被害についてインターネットで公開アンケートを実施した。9332人が回答し、8割弱が「具合が悪くなった」、うち2割弱が「仕事を休んだり、学校に行けなくなったりした」とした。症状は頭痛、吐き気、思考力低下、めまいなどだった。

 この結果を受けて、同連絡会は昨年9月、消費者庁などの関連省庁に、香害をもたらす家庭用品の規制を求める要望書を提出。今年3月にも、香害で苦しむ人の医療、介護の改善を求める要望書を厚生労働省に提出した。連絡会の構成団体の一つの日本消費者連盟は、昨年11月に啓発用ブックレット「ストップ!香害 余計な香りはもういらない」を出してアンケート調査の結果などを紹介。DVDもあり、いずれも一般向けに販売している。

 無添加せっけんを製造販売する「シャボン玉石けん」(北九州市)は18年6月、公式サイトに香害に関する特設ページを開設し、同社の調査データや当事者の声、短編ドキュメンタリー映画などを紹介している。森田隼人社長は「誰もが被害者にも加害者にもなりうる深刻な問題だと知ってほしい」と話す。

「適正量を」全製品に記載

  香りが体調不良を引き起こす製品には合成洗剤や香水、制汗剤などがあるが、相談が多いのは柔軟剤だ。「香害」という言葉も、海外製の柔軟剤がブームになった2010年前後に使われ始めた。国民生活センターによると、柔軟剤の香りを巡って14年4月~20年1月に全国の消費生活センターに寄せられた相談は928件で、64%は「においがきつくて頭が痛くなる」など不調を訴える内容だった。

 日本 石鹸(せっけん) 洗剤工業会の15年の調査では、柔軟剤を使う人の約2割は目安量の2倍以上を入れていた。このため18年に品質表示に関する基準を改定し、周囲への配慮と適正量の使用を全製品に記載している。

〈化学物質過敏症〉

 香り成分などの化学物質に反応し、体調不良を訴える疾患。患者は国内で100万人以上との推計もある。化学物質と症状の因果関係や発症メカニズムはまだはっきりしていない。

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