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医療・健康・介護のコラム

手術の後遺症で子宮口が塞がっていた! 次から次に病気判明も妊娠あきらめず

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ようやくの体外受精も妊娠せず 新たに四つの障害

手術の後遺症で子宮口が塞がっていた! 次から次に病気判明も妊娠あきらめず

 こうして数々の苦労を経て準備を整え、Mさん夫妻はやっと、初めての体外受精に臨みました。卵は複数個育ちましたが、骨盤内の癒着があるため、採取できたのは五つ、正常受精した卵は三つでした。初期胚を移植したものの、結果は残念ながら陰性。Mさんは、その後、移植を繰り返しても妊娠判定は出ず、ある日、ドクターに治療のお休みを提案されてしまいました。

 「でも、そのころはもう、一周期も無駄にしたくないという思いが強くて、とても治療をお休みする気にはなれませんでした」と、Mさんはひたすら治療を継続していったことを話してくれました。「誘発方法を変えて採取できる卵の数が増え、初めて胚盤胞まで育った時は期待も大きかったのですが、それでも着床することはなくて……そこで再度、詳細な検査を受けてみたんです」。すると、新たな障壁が見つかったのです。

 一つ目は「甲状腺異常」。甲状腺に異常があると不妊の原因になるため、専門の病院で治療を受ける必要がありました。二つ目は「抗精子抗体」。これは「精子を外敵とみなして精子の動きを妨げてしまう抗体」のことで、不育症の原因とされています。そこでMさんは、「夫リンパ球移植療法」と呼ばれる、夫のリンパ球を妻に移植する治療を行いました。

 三つ目は「子宮頸部高度異形成」。Mさんは数年前から異形成という診断を受けていて、このまま症状が進行すると、子宮頸がんのリスクもあったため、再度、手術を受けたそうです。四つ目はホルモン異常。Mさんの場合、妊娠のために必要なホルモンが多く出過ぎていたため、不妊症の原因になっていました。

 それまで、ひたすら体外受精を繰り返していたMさんでしたが、いや応なく不妊治療を中断することになり、数か月間は、高度異形成の手術や不育治療に専念したそうです。当時、Mさんは不妊のつらさを誰にも話せず、 悶々(もんもん) とした日々を過ごしていました。仕事をしながらの通院は負担が大きく、採卵の痛みなど、肉体的な苦痛もありました。治療費も高額ですから、金銭感覚がマヒしてしまうことがあり、経済的な不安にも襲われていました。

精神的にダメージ 夫は「子供はいなくてもいい」と言うものの

 中でも、Mさんがもっとも辛かったのは精神的なダメージです。体外受精を繰り返しても、いわゆる「かすりもしない」陰性続き。さらに追い打ちをかけるように次々と見つかる病気。まさに出口の見えないトンネルの中をひとりでさまよっているように、つらく、苦しい日々が続きました。

 「人に話しても理解してもらえないだろうと思ったし、同情されたり、詮索されたりするのが嫌で、同僚にも不妊治療のことは告げず、自分の殻に閉じこもっていた」そうです。「もう妊娠できる自信もなくなり、夫に一度、特別養子縁組の相談をしたこともあるんですけど、それは嫌だと反対されてしまって。そしたらもう、それ以上話すことができなくなってしまって」と、当時の苦しかった胸の内を明かしてくれました。

 「夫は『もう、子供はいなくてもいいから』と言ってくれたんですけど、それは本心じゃないって分かっていたんです。だって、小さな子供を見る夫のまなざしはいつもとてもやさしかったから……」と、Mさんは涙をにじませながら続けます。「夫から『もういいよ』と言われれば言われるほど、そうやって私を思いやってくれる夫に、自分の子を抱かせてあげたいと、強く思ったんですよね」

病院のカウンセリング受け、気持ちが楽に

 けれども、高い壁にぶち当たり、負のループにはまっていたそのころのMさんは、本心では、もう不妊治療になんの希望も見いだせなくなっていました。そんな頃、通院していた病院の相談室の案内が目に留まったそうです。「それまでカウンセリングなんて、敷居が高いし、私には関係ないと思っていたんですけど、やり場のない思いを誰かに聞いてほしくて、カウンセリングを受けました。初めての相談で、うまく話がまとまらなかったんですけど、カウンセラーさんは優しく話を聞いてくれて……私は、それまで蓋をしてきた感情があふれ出し、もう涙が止まりませんでした」

 旦那様にも話せなかったつらい思いを吐き出し、とても気持ちが楽になったこと。そして「いつか私もカウンセラーになり、不妊で悩んでいる人の力になりたい!」と思うようになったことを、話してくれました。

体外受精再開 多くの壁乗り越えて無事出産

 Mさんは、その後、体外受精を再開することができ、移植後、なんと初めての陽性反応。そして無事出産することができました! 私も、これまでに数多くの不妊体験者の方の話を聞いていますが、Mさんほど次から次に病気が分かり、苦労をされた方は珍しく、あきらめずに続けてこられたことを尊敬しますし、本当によかったなと心から思います。

 Mさんのように、「知らなかった」ことから、自分で良かれと思って健康のために治療を受ける方は多いと思います。しかし、女性が妊娠を望む場合、できるだけ腹部にメスは入れないほうが良いということも聞きます。こうした情報を含むプレコンセプションケア(※1)がまだまだ進んでいないことは、日本の教育における課題の一つと言えるでしょう。一日も早く、教科書に不妊を含めたプレコンセプションケアや、不妊治療だけでなく養子縁組や里親制度、またLGBTQ(※2)などを含む、多様な性や家族のあり方の情報を掲載してほしいと思います。(松本亜樹子 NPO法人Fine=ファイン=理事長)

※1 将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと(国立成育医療研究センターのホームページより)

※2 性的少数者の総称。レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(心と体の性が一致していない)の頭文字に、自分の性が分からないという「クエスチョニング」と、その他の性的少数者を表す「クィア」の頭文字Qを指す。

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松本亜樹子(まつもと あきこ)

NPO法人Fine理事長/国際コーチ連盟認定プロフェッショナルサーティファイドコーチ

 長崎市生まれ。不妊経験をきっかけとしてNPO法人Fine(~現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会~)を立ち上げ、不妊の環境向上等の自助活動を行なっている。自身は法人の事業に従事しながら、人材育成トレーナー(米国Gallup社認定ストレングス・コーチ、アンガーマネジメントコンサルタント等)、研修講師として活動している。著書に『不妊治療のやめどき』(WAVE出版)など。
Official site:http://coacham.biz/

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