産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
休職理由、以前は「自律神経失調症」、今は「うつ状態」……この違いは何?
「メンタルで休む社員の半数以上が『うつ状態』の診断書……これってうつ病?」 の記事は多くの方に読んでいただきました。メンタル不調で休養が必要になるサラリーマンは少なくありませんが、以前は「自律神経失調症」という診断名もよく使われていました。何が変わったのでしょうか。精神科産業医の夏目と、診断書を受け取る人事部長、当事者の社員の3者の対話で紹介します。

イラスト 赤田咲子
診断名は病名とは限らない
人事部長:先生、私の所に提出されたメンタル系診断書の診断名を見ると、「うつ状態」が多いのですが、うつ病とは違うのですね。
産業医 :そうです。「うつ状態」の名前の通り、落ちこんだり、気力を失ったりした状態を示しています。
人事部長:でも、「診断名」と書かれていますよ。
社員 :えっ、私の診断書にある「うつ状態」は病名ではないのですか?
産業医 :そうです。診断書は、「病気によって休養や治療が必要である」と証明する書類です。書類には便宜上「診断名」が必要ですが、初期の診察の段階では診断が確定していないので、現在の状態を書いているのです。
社員 :書類のための名称ですか。
人事部長:診察すれば、すぐに診断が確定できるわけではない、ということなんですね。
産業医 :そうです。今までの診察結果、「診立て」です。診察を続けると、診断名としては「うつ病」の場合もあるし、平日は不調だけれど休みの日には元気な様子が見られれば「適応障害」かもしれません。「うつ状態」はその時点での状態を示した言葉です。
社員 :そこを説明してくれないと、自分はうつ病だと受け止めます。
心の病気には偏見があって、それで……
産業医 :そうですね。診断名の意味については患者さんや人事の方には説明しています。ただ、それだけではなく、実は心の病気には、残念なことですが、まだまだ偏見があります。本当の病名を書いて、患者さんが不利になったことがあるので、あえて「状態名」で書く場合もあります。うつ病の場合、現在は一般的な病気として理解が広がりましたが、以前はそうではありませんでした。
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