がんのサポーティブケア
医療・健康・介護のコラム
多様で個別性の高いAYA世代 多職種の医療者が患者の意思決定支援 妊孕性の課題 医療機関や地域のネットワークづくりを
清水千佳子・国立国際医療研究センター病院がん総合診療センター副センター長に聞く
がんのサポーティブケアの連載5回目は「妊娠・出産、AYA世代の支援」がテーマです。AYA(Adolescent and Young Adult)は主に15歳から39歳の思春期・若年成人のことで、がん治療に伴う妊娠・出産や学業、仕事などの世代特有の課題と支援の必要性が指摘されています。AYA世代のがん患者の支援に取り組む、国立国際医療研究センター病院がん総合診療センター副センター長の清水千佳子さんに聞きました。(聞き手・田村良彦)
――がんの診断や治療は、生殖機能にどんな影響を及ぼしますか。
がんの主な治療法には手術、放射線、抗がん剤治療があります。精巣や卵巣、子宮などの生殖器にできるがんでは、根治的な治療法として、手術で臓器そのものを切除しますし、抗がん剤が精巣や卵巣の機能に直接、影響を及ぼすこともあります。
生殖器のがんではなくても、たとえば前立腺がん手術の合併症で勃起障害などが起きることがあります。また、頭部への放射線照射を行うがんでは、ホルモンの分泌低下を招いて、生殖機能に影響を及ぼす場合があります。
乳がんのように手術後に長期間、ホルモン剤の治療を行う場合には、産みたい年齢で産めないという年齢との関係も出てきます。
――がんの治療との兼ね合いが大きいわけですね。
命に関わるがんの治療がまず重要ですし、がんの種類や進行度によって予後も違ってきます。妊孕性(にんようせい)というと、生殖器そのものへの影響に目が向きがちですが、通常の不妊と違うのは、がん闘病という命の問題に直面した中で、不妊について考えなくてはならない点です。
がん治療の成績向上 生殖医療技術の進歩 双方が背景に
――がん治療において妊孕性の問題がクローズアップされるようになった理由は何ですか。
日本で生まれるお子さんの20人に1人は不妊治療による出産と言われるように、不妊治療の技術が進歩し、普及してきたことが背景の一つにあります。
同時に、がん治療の成績も改善してきたことももう一つの理由です。がん治療の成績が向上したことで、がんを克服した後の人生を考えられるようになりました。
――いつ頃から普及し始めたのでしょうか。
少なくとも1990年代はまだ、がんの治療が最優先される中で、子どもを持つなんて考えられないというのが一般的だったように思います。妊孕性が話題にされるようになったのは2000年代に入ってからでしょうか。
――がん治療が最優先で、妊娠、出産どころではなかったのが、考えることができるようになったわけですね。
もちろん、がんによっては、非常に進行が速かったり予後が悪かったりして、なかなかそういう話に持って行けないケースもあります。妊孕性を温存することそのものが重要というのではなく、がんの患者さんが妊孕性について考える機会を持てるようになったことが大事なのだと思います。
妊孕性 AYA世代に共通の課題
――がんの種類に関係なくAYA世代共通の問題と言えますか。
若い世代のがんは多種多様です。小児がんは希少がんが多く、20歳ぐらいでは卵巣や精巣がん、20歳代後半からは子宮頸(けい)がんが増え、30歳代ぐらいなると大腸がんや肺がんなど成人のがんが増えてきます。がん治療全般で抗がん剤を使うことが増えており、生殖機能への影響はどんながんでも考えなければなりません。
――妊孕性の温存は、AYA世代だけでなく小児がんの患者でも可能ですか。
小児の場合、男性だと二次性徴の前に精子を温存することは今の技術では困難です。女性では、月経が始まっていない場合には卵子の温存は難しいですが、卵巣組織凍結という方法はあります。
技術的な問題だけでなく、説明と同意のプロセスも異なります。未成年の場合には親の同意になり、成人後に本人がどうするか決めることになります。思春期ぐらいの患者さんでは本人よりも親の方が熱心なケースもみられますが、将来的な親子関係の変化も考えられ、成人の場合に比べると意思決定には複雑で難しい面があります。
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