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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

角膜移植と新型コロナウイルス感染…影響はある? ない?

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角膜移植と新型コロナウイルス感染…影響はある? ない?

 角膜は、眼球の最表面にある透明な組織で、凸レンズの作用をします。

 これが、化学薬品(酸やアルカリ)、再発性の治りにくい角膜炎、コントロール不能に陥った高眼圧や眼科手術後の感染症などで透明性がなくなった場合の最後の手段は「全層角膜移植」です。

 角膜は、移植医学では歴史上一番最初に行われるようになったという組織です。しかし、どの医療機関でも容易に行える手術ではなく、大学などごく限られた専門機関でしか行われていません。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がまん延して以降の事情は明らかになっていませんが、平時の日本では、毎年1500から3000眼の手術が行われてきました。ただし、最近では、国内の献眼者(ドナー)の角膜はその半数に届かず、海外ドナーによる角膜を移植されるケースが多いようです。

 国内ドナーによる手術が少ないのには、いくつか理由があると思います。ドナーになるためには、生前に献眼登録がなされているか、生前に本人がその意志を表明していることが条件です。ドナー不足は以前から言われており、日本アイバンク協会などが啓発活動に力をいれていますが、日本の歴史的文化構造からでしょうか、ご遺体の眼球を摘出することに強い抵抗感があるようです。

 もう一つは、まず眼科医が病院や家庭でご遺体の眼球摘出をしなければ国内ドナー眼にはならないわけですが、先ほど述べたように、角膜移植を行っている医療機関が限られている上、摘出を行う人材(眼科医)の余裕が不十分なことも大きな問題です。

 昨年、新型コロナウイルスが、患者の涙や角結膜からも検出されたという研究が発表されました。まだ十分な証拠はないものの、目からの感染も可能性があるということで、日本眼科医会と日本眼科学会は一般向けに注意をよびかけました( 2020年4月30日「目から感染する可能性のある新型コロナウイルス」 参照)。

 そうなると、死因が不確実だったり、PCR検査が行われていなかったりしたご遺体からの眼球摘出に際して大きな懸念が生じます。これは当然、海外ドナー角膜についても言えることですから、下手をすれば角膜が混濁し最後の手段となる角膜移植が、極めてしにくくなる事態となります。

 ところが、今年になって、呼吸不全で死亡した新型コロナウイルス感染症患者の5例10眼に対して、角膜、結膜、涙液などに対するPCR検査を行ったところ、すべて陰性だったとの研究論文がドイツから発表されました。

 5例という限られた数の研究ですからなお慎重に扱うべきではありますが、角膜移植の手術者、移植を受ける患者双方にとって、極めてありがたい情報ではあります。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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