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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

眼球運動を司る「脳幹」の構造は重要…村上“ポンタ”秀一さん「視床出血」も

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眼球運動を司る「脳幹」の構造は重要…村上“ポンタ”秀一さん「視床出血」も

 眼球そのものに異常はなくても、左右の目の位置のずれや、目の不適切な動きにより、せっかくのよい目が使いものならない事態が起こります。

 目を動かすのは、眼球の周りについている六つの外眼筋で、三つの運動神経(動眼神経、滑車神経、外転神経)がこれを支配しています。

 目の位置や動きは脳が計算して決め、上記の神経を介して外眼筋に指令することで眼球運動が成立します。

 その眼球運動には種類があります。少々、専門用語が並びますが、対象物を見つける速い運動(サッケード)、対象物の動きに合わせて追従する運動(パシュート)、近方、遠方の対象物を見る内寄せ( 輻湊(ふくそう) )、外寄せ(開散)運動、また、ある方向をじっと見続ける注視などです。我々は生活空間の中で、これらの眼球運動を組み合わせて使用しています。

 そして、このどの要素でも不調になれば、ものを見るのに甚だしい不都合が生じます。

 具体的な自覚症状は、目の位置が(外見的に)変、物が二つに見える(複視)、揺れて見える(振動視)、ある方向に目が動かない(注視まひ)などです。ものを見るのがつらい、疲れる、ぼやけるなどの漠然とした訴えの場合もあります。

 さて、このような複雑な眼球運動の成り立ちに関わる神経回路が目白押しなのが、視床などの基底核、中脳、 (きょう) 、延髄を含む広義の「脳幹」です。これに小脳を加えた部位に腫瘍や血管障害(出血、 梗塞(こうそく) )が生じると、眼位(目の向いている方向)、眼球運動に影響を及ぼします。

 脳幹の上方に位置する「視床」で思い出されるのが、日本有数のドラマー、村上“ポンタ”秀一さん他界のニュースで、その原因とされた「視床出血」です。

 視床出血は脳出血でも比較的多いものですが、たとえ命が助かっても、7割は後遺症に悩まされます。眼球運動関連では、両目が鼻先に向いて固定してしまう「共同偏視」が生じることが有名です。そこまでひどくなくても、上に向けない(上方注視まひ)、まひを伴わない眼球位置の上下ずれ(専門用語では斜偏位)はよく見られる、治りにくく、つらい眼球の後遺症です。

 下部脳幹にある延髄の梗塞も比較的よく見られます。60歳代の女性は数年前に突然、激しい回転性のめまいに襲われ、長くめまいや、吐き気に悩まされていました。総合病院を受診し、「前庭神経炎」と診断されたそうです。

 その後、めまいは減少してきましたが、見え方がおかしく、まぶしさや疲労も感じ、日々つらい状態でした。眼科では眼球に異常なしと診断されましたが、「神経眼科の専門医にもみてもらいたい」と私の外来に来ました。

 診察すると、斜偏位(目の向いている方向のずれ)を始め、いくつかの眼球運動の異常が確認されました。数年前の病気の場所は前庭神経にとどまらず、延髄の一部に梗塞が生じたためで、「延髄外側梗塞」(ワレンベルグ症候群)だと判明しました。光を屈折させるプリズム眼鏡の装用で、生活は若干しやすくなったとのことでした。

 このように、脳幹の病気はしばしば眼球運動に影響を与え、せっかく健常な目を持っていても有効に使えず、生活や仕事に不都合が出ます。

 しかし、現行制度ではそういう異常があっても、障害認定はされません。

 日常視に非常に大きな不調をもたらすものですので、理解を深め、支援を広げるべきで、制度の見直しも図るべきだと私は思っています。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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