ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
2匹の愛猫を看取った入居者(下)先代が導いた奇跡 「ナッキー2世」登場
出会ったその瞬間から最高のパートナーに
これは冷たいようにも見えますが、愛護団体といえども無限に猫を預かれるわけではありません。ボランティアのメンバーが自分の家で、自腹を切って猫を預かるのですから、数に限りがあるに決まっています。従って、新しい飼い主を見つけやすい若い猫を優先して預かるしかないのです。もし高齢の猫を預かり、新たな飼い主が1年間見つからなかったとします。それが若い猫なら3か月で見つかるかもしれません。つまり、高齢の猫1匹を預かったために、若い猫4匹を助けられなくなるのです。猫の殺処分を救うため、ぎりぎりの状況で頑張っている愛護団体は、命の優先順位(トリアージ)をつけなければならないのです。
このような事情のため、その愛護団体は、本来ならナッキー2世を預からないはずでした。しかし、あまりにも人懐こくてかわいいので、団体の代表者が個人的に預かることにしたのです。代表者の方は、長年、愛護団体の活動をしてきましたが、こういうケースは初めてだったそうです。
ナッキー2世がいた地域の保健所は、殺処分ゼロではありませんでした。高齢のナッキー2世が保健所に送られていたら、殺処分になってしまった可能性は高かったと思います。運よく命拾いをしたのです。そして、全国唯一の、ペットと暮らせる特別養護老人ホームで暮らす高齢者の、死んだ愛猫とそっくりだったので、引き取られることになったのです。この経過を「ささやかな奇跡」と言ったら大げさでしょうか?
山口さんとナッキー2世は、出会ったその瞬間から最高のパートナーになりました。いつも一緒にいて、同じベッドで寝ます。なぜナッキー2世が、初めて会った人に、それほど懐いたのかは不思議です。先代のナッキーに外見がそっくりなので、気持ちにも通じるものがあったのでしょうか? もしかしたら先代のナッキーが導いてくれたのでしょうか? 合理的に考えれば、高齢者に飼われていたので、高齢者と一緒に暮らすのが心地よい、というところなのでしょうね。
残念ながら、山口さんとナッキー2世の暮らしも長くは続きませんでした。1年後、ナッキー2世は、がんで死んだのです。がんが発見された後、山口さんの息子さんは分子標的薬という高価な薬を使用して下さったので、がんの痛みも、副反応の苦しさもなく、穏やかに時を過ごし、山口さんの腕の中で笑うような顔で旅立ちました。
わずか1年ですが、保健所で殺処分になることに比べれば、山口さんの愛情に包まれて過ごした、かけがえのない1年だったと思います。
そして山口さんにとっても、豊かな感情を取り戻す、かけがえのない1年でした。現在、山口さんは、ご自分の愛猫はいませんが、表情や言葉は失っていません。ホームの飼い猫たちをなでて、ほほ笑んでいます。ナッキーとナッキー2世は、山口さんにすばらしい贈り物を残してくれたのです。
(若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)
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