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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

新型コロナ変異株 最大の懸念とは 感染スピード、死亡リスク、ワクチンの効果は

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感染者数の多さが招いた「キャラ変」

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 こういうわけで、変異株のいくつかはワクチンの「キャラ」を変えています。ぼくは以前、ウイルス感染において突然変異がウイルスの「キャラ」を変えることはめったにない、と申し上げていました。

 ところが、世界中で流行する「パンデミック」の新型コロナウイルス感染症はこの100年で最大、最悪の感染症です。感染者の数がハンパなく多いため、突然変異の発生も多く、突然変異が多いために「めったに起きない」「キャラ変」が複数発生してしまっているのです。今後も、現在存在しない「キャラ変」した変異株が発生しないとも限りません。

 「キャラ変」において重要なポイントは、以下の三つです。

1.感染のスピードが変化し、たくさんの感染者が発生する可能性

2.死亡リスクの悪化など、感染者の予後が変化する可能性

3.既存のワクチンの効果が減ってしまう、なくなってしまう可能性

 いずれも重要な可能性です。

 とくに、「ワクチンが効かなくなってしまう」可能性は重大です。バイデン政権になってからのアメリカ合衆国は現在、大量のワクチン接種でコロナのリスクを乗り越えようとしています。日本とは比べ物にならないくらいのスピードで接種しています。

 人口あたりの接種回数が最も多いのがイスラエル、次いでアラブ首長国連邦、チリ、英国、そして米国で、すでに米国では5300万人以上の方がワクチン接種を終えています。日本の接種者がまだ人口の1%にも満たないこと(2021年3月31日時点)を考えると、驚異的です。

 バイデン政権のコロナ対策は実質的に「ゼロコロナ」です。ただし、前回、ぼくが提唱したタイプの「ウイルスゼロ」を目指しているわけではありません。コロナウイルスがいようといまいと関係ない。たくさんの方がワクチンを接種し、免疫をつけることで感染者・病人をなくしてしまえばよい、という発想です。

 コロナというウイルスがいても、コロナという病気がいない。そういう意味での「ゼロコロナ」です。これは麻疹やポリオや風疹といった感染症対策と同じ考え方です。考えてみれば、アメリカ合衆国は伝統的にこのスタイルの感染対策が得意です。

「数は数えるが減らそうとしない」日本

 日本の場合は、特に何コロナを目指しているわけではありません。政治家にも官僚にも「コロナ対策がもたらす世界」がどういうものか見えていないからです。

 彼らにあるのは目先の対策だけ。対策あれど、ビジョンなし。これも考えてみれば、これまでの日本の感染症対策はほとんどこれでした。梅毒しかり、エイズ然り、麻疹然り、です。ポスト・トランプのアメリカが本気を出した今、国の持つ「ビジョン」というもののあるなしを、ぼくは痛感しています。

 それはさておき、「現在日本に流通している変異株」、特に死亡リスクが高いかもしれないB.1.1.7と、ワクチン効果が減じる可能性があるP.1については最大限の封じ込め対策をすべきでした。が、残念ながらできませんでした。

 いつものように日本は「水際作戦」を強化したのですが、すでに国内に入ってしまった変異株に水際作戦は無効です。変異株モニタリングを強化する旨、日本政府は方針を示していますが、感染症の数を数えても感染症は減らないのです。これもまた、「数は数えるが減らそうとしない」、伝統的な昔からの日本の感染対策そのまんまです。

 ぼくが住んでいる神戸市でも変異株はどんどん増えています。重症化するケースが多いような印象を受けており、重症者のいるICUが先に満床になり、軽症・中等症ベッドのほうが空いているという奇妙な現象が見られます。これから変異株の重症化リスクについては精緻(せいち)な分析が必要ですが、ざっくり申し上げて「B.1.1.7は重症化しやすい」という実感を臨床現場では得ています。

 しかし、ここまで感染者が増えてしまったら変異株だけ封じ込めるのは非常に困難でしょう。初期の段階のアクションがなかったのが悔やまれます。まさに「覆水盆に返らず」です。

感染者数を減らすことが最大の変異株対策

 さて、変異株が「キャラ変」を起こすのは、新型コロナの感染者数がとても多いからです。考えてみれば、これまで「キャラ変」した変異株が見つかっているのは、いずれも感染者数がとても多い国ばかりです。そして、今後も感染者数が多い国では「キャラ変」が新たに発生するリスクがあります。

 よって、やはり感染者数は減らさねばならないのです。何度も繰り返し申し上げていますが、新型コロナ対策で「感染者数を増やしながらうまくいく対策」は存在しません。ひとつも存在しません。感染者数を減らす。これが前提です。この前提が満たされない限り、どんな対策(経済対策を含む)をとっても、それは失敗に終わるのです。

 変異株は感染者を増やします。感染者が増えると、さらに変異株が生じます。感染者減少の策は、それ自体が(未来の)変異株対策にもなっているのです。さすれば、我々が目指す方向はもう定まってもいいようなものです。残念ながら、本稿を書いている時点で日本は真逆の方向を向いているのですが。(岩田健太郎 感染症内科医)

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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