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ココロブルーに効く話 小山文彦

医療・健康・介護のコラム

【Track12】二重人格として姿を現した20歳女性の解離症状 ~代理で診察室にやってきた「もう一人の自分」~

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 誰にでもあるのではないでしょうか。自分にはない魅力の持ち主にあこがれたことが。

 「あんな人間になりたい」と望み通りの姿や内面に 変貌(へんぼう) できるなら幸せかもしれませんが、なかなかそうはいきません。

 ところが、その願望がかなわず、思いを抑え続けていると、時に「もう一人の自分」が代役となって現れてくるケースがあります。いわゆる「二重人格」と呼ばれる状態の一つです。

 今回は、抑圧された自身の気持ちが、意図せず別人格の行動に現れる「解離性同一性障害」(以後、解離症状)を経験した女性のエピソードです。 

不眠と倦怠感で外来に来た彼女

ココロブルーに効く話 Track12 二重人格として姿を現した、20歳女性の解離症状代理で診察室にやってきた「もう一人の自分」

 サキミさんは20歳。調理の専門学校で学んでいましたが、しばらく不眠が続き、 倦怠(けんたい) 感も感じるようになっていました。思い当たるきっかけもなく、かかりつけの内科医でもとくに異常なしと診断されたため、当時、私が勤めていた病院にやってきました。 

 若い女性にしては、化粧っ気はなく、飾り気のないジーンズとパーカー姿で診察室に入ってきた彼女ですが、その表情や言葉からは活気が感じられません。「ほぼ1か月間、不眠と倦怠感が続いている」と訴えるだけなので、まず、うつ状態が考えられました。

 精神科にやってくる初診の患者さんには珍しく、自身の悩みについてはほとんど語りませんでした。「眠れなくて、だるい」と言う以外に、彼女が話す内容は、自分のことではなく、もっぱら両親についてでした。 

 以前、地元の役所に勤めていた父親(52)は、アルコール依存症で入退院を繰り返し、とうとう2年前に退職したそうです。酒癖が悪く、酔っ払ってサキミさんに手を上げることも何度かありました。ただ、お酒の飲みすぎが原因でアルコール性肝硬変となり、治療に専念している1年ほど前からは、人が変わったようにおとなしくなったと言います。そんな父親に対して、サキミさんは相当の恐怖と嫌悪感を抱いており、それが彼女を抑圧していることが見て取れました。

 母親(46)は、福祉施設の栄養士として働いていますが、半年前からうつ病にかかり、精神科病院で治療を受けているとのこと。もともと仕事ぶりは真面目で、職場からの信頼も厚い女性ですが、体調を崩してからは近所づきあいや、知人・友人との交流もほぼなくなってしまったそうです。

 夫のアルコール癖に一緒に悩んできたことで、母娘の結びつきは強そうですが、最近ではうつ病の影響のためか、二人の会話も減っている様子でした。 

 性格がおとなしく、引っ込み思案なサキミさんは、暴力的な父親から自身を解放したいと思っても、そんな思いを母親に対してさえ吐露できていないようでした。このままでは、サキミさんは孤独なストレスを抱え続け、心が破綻しかねません。彼女の不眠や倦怠感もそこから来ている――。50分程の初診で、私はそう推察しました。

 まずは、サキミさんが自ら精神科に来て、今まで誰にも話してこなかったことを明かしてくれたことをねぎらいました。その上で、不眠と緊張の緩和のため、抗不安薬「クロチアゼパム」を処方し、1週間後に再度、来てもらうことにしました。 

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小山 文彦(こやま・ふみひこ)

 東邦大学医療センター産業精神保健職場復帰支援センター長・教授。広島県出身。1991年、徳島大医学部卒。岡山大病院、独立行政法人労働者健康安全機構などを経て、2016年から現職。著書に「ココロブルーと脳ブルー 知っておきたい科学としてのメンタルヘルス」「精神科医の話の聴き方10のセオリー」などがある。19年にはシンガーソング・ライターとしてアルバム「Young At Heart!」を発表した。

 今年5月14日には、新型コロナの時代に伝えたいメッセージを込めた 新曲「リンゴの赤」 をリリースした。

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