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鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

医療・健康・介護のコラム

乳がん末期患者 残り時間は短いのにコロナ対策で10日間隔離…どうケアすればいいのか

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 乳がんのステージ4で肺転移の患者(70代女性)が、緩和ケア病棟に緊急の再入院となった。患者は、自宅へ戻ったり、緩和ケア病棟へ入院したりを何度か繰り返していた。発熱と肺炎の所見があるため、新型コロナウイルス感染の疑いがあるとされ、それに準じた対応が必要となった。

 患者は入院当日にPCR検査を受けた。患者は病室へ入ってくる看護師の服装を見て、「その格好、わたしはやっぱりコロナなのね?」と言い、涙を浮かべていた。看護師は「熱があるときは、いま、皆さんにこのようにすることになっているんです。私たちの顔が見えづらくてますます心細いと思いますが、ご家族とも相談して工夫していきますね」と伝えた。翌日、陰性と判定されたが、新型コロナウイルス対応として、その後10日間の隔離が必要となる。患者は、大家族で暮らしてきたこともあり、一人になることは好まず、今までの入院時も、家族が頻繁に付き添っていた。 寂寥(せきりょう) 感が強く、誰かがそばにいてほしいとの訴えが強かった。

 主担当の看護師は、今までの入院のときのように、できるだけ患者に付き添いたい、他の患者と同じようにしてあげたい、と看護師長に伝えてきた。病院の感染対策室からは、スタッフへの感染予防のためケアを手短にするよう言われているが、患者に残された時間はそう長くはない、一体どうすればよいか。

医師は興奮を抑える薬を提案したが

乳がん末期患者 短い残りの時間なのにコロナ対策で10日間隔離…どうケアすればいいのか

 緩和ケア領域で長年のキャリアのある看護師長が話してくれました。管理者としては、食事介助や何らかの処置がある場合を除いて、スタッフが15分以上病室にとどまるのは感染リスクの面から見ても「長い」と感じていたそうです。一方、終末期にあることを考えれば、ベッドサイドで患者さんのそばに付き添うことは必要なケアです。

 その後、この患者さんの不安による興奮に対してどうアプローチしていくか、医師や看護師のチームで話をしたそうです。話し合いでは、医師からは、「少し眠くなってしまうが、神経の興奮を抑える薬をつかうことで、対応してはどうか」という提案がありました。

 担当看護師からは、患者さんの見えるところに、「〇時に部屋を訪問します」と大きく書いた紙を貼り、必ずその時間に行くようにしてはどうか、という意見も出されました。まずは、貼り紙をして訪室時間を約束することで、寂しさや不安が軽減されるかどうか見てみようということになりました。

 このケースは、新型コロナウイルス感染症への感染リスクを考えた対応を余儀なくされるなかで、看護師として患者さんとどう向き合っていくのかという、「看護」のあり方を考えさせます。

 確かに、薬により患者さんの興奮を抑える方法は、患者さんのさびしい、不安な気持ちを和らげることになると思います。しかし、看護師は「どうしたら患者さんが安心できるのか」と考え、ケアの観点からの別のアプローチとして、貼り紙の提案をしたのだと思います。

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鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大学教授(生命倫理学・看護倫理学)、同公衆衛生大学院兼任教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)がある。

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