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今井一彰「はじめよう上流医療 あいうべ体操で元気な体」

医療・健康・介護のコラム

カミソリで寝相を矯正した徳川慶喜 体を縛って仰向けに寝たネイティブアメリカン

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 以前、うつぶせ寝健康法が 流行(はや) りました。「頭の形が良くなる」といって、子どものうつぶせ寝を推奨する医師もいましたが、SIDS(乳幼児突然死症候群)を引き起こす可能性があるため、現在は推奨されません。この健康法は、人間がもともと四つ足動物から進化してきた動物で、四つ足動物はうつぶせに寝ることから、「うつぶせ寝が本来の寝方である」という間違った考えに基づきます。

カミソリで寝相を矯正した徳川慶喜 体を縛って仰向けに寝たネイティブアメリカン

 イヌやネコ、ウシといった四つ足動物と、二本足で歩く人間では、頭蓋骨と頚椎けいついの位置関係が違いますから、人間はうつぶせ寝で寝ることが難しいのです。人間を含む類人猿は、寝るときは基本的にあお向けです。試しに腹ばいになってみてください。顔は左右どちらかを向くはずです。床の方を見ることはできませんし、正面を向くのもかなり無理な姿勢です。

 今年の大河ドラマの主役は、明治の偉人、渋沢栄一ですが、江戸幕府最後の将軍である徳川慶喜も登場します。慶喜は、幼い時の寝相の悪さを矯正するために、枕の両側にカミソリを置かれて仰向けで寝て、寝返りが打てないようにされたと言われます。もちろん寝返りは大事ですから、寝入った後は家来がそっとカミソリを外したようです。どうして仰向けに寝させるのでしょうか。そして、うつぶせ寝で顔が変形するとしたらどうでしょうか。

うつぶせ寝で変わる歯並び

 頭は見た目よりも重さがあり、5キログラム程度あると言われます。一方、歯の矯正器具の力はどれくらいかというと、数グラムから十数グラムだそうです。それくらいの弱い力でも、持続的に力がかかることによって歯並びが変わるのです。

 このイラストは、アメリカの画家であり、「口呼吸」という用語を始めて記述したジョージ・カトリンの著書(1861年「The breath of life」)の挿絵ですが、口を閉じて鼻呼吸をしている人の顔は整っていて、口を開けて寝相が悪い人は顔がゆがんでいることを示しています。図中にHabitと書いてあるのは、まさに口呼吸や寝相といった“習慣”によって顔が変わっていくという意味です。カトリンは画家でしたから、このような顔の変化にも気がつくことができたのでしょう。

左は鼻呼吸の人の顔。右は口呼吸で寝相が悪い人の顔(カトリンの著書より)

左は鼻呼吸の人の顔。右は口呼吸で寝相が悪い人の顔(カトリンの著書より)

 うつぶせ寝だったり、長時間ほおづえをついたりすると、矯正器具よりもずっとずっと大きな頭という力が加わるのですから、歯並びも当然変わってきます。睡眠というのは、とても”難しい“もので、食事や呼吸は自分の意思でコントロールできますが、「今日は良い睡眠をとるぞ」と決めたとしても、その通りにできるかどうか分かりません。睡眠にしろ、寝返りにしろ、無意識の行動ですから、「うつぶせ寝をやめた方が良い」と言われても、いつの間にかそんな寝相になってしまうのはどうしようもありません。

横向き寝で口を開けて、腕枕の状態で寝ている様子(カトリンの著書より)

横向き寝で口を開けて、腕枕の状態で寝ている様子(カトリンの著書より)

まるで拷問 体を縛って寝たネイティブアメリカン

 ですから、ネイティブアメリカンは、寝るときに体を縛ってうつ伏せにならないようにしたようです。イラストで見ると拷問のような寝方ですが、それくらい仰向けで寝ること、寝ているときに口を閉じておくことを意識していたようです。このカトリンの本が出版された時期は、日本はまさに徳川の世から明治に変わる直前です。日本とネイティブアメリカンが、同じように寝相を矯正していたというのは興味深いです。

赤ん坊のおくるみのような状態で寝ている様子(カトリンの著書より)

赤ん坊のおくるみのような状態で寝ている様子(カトリンの著書より)

横向き寝をするなら、顔の向きを毎晩変える

 睡眠時無呼吸症候群は、高血圧や糖尿病を引き起こす“隠れた大病”ですが、個人的な問題だけではなく、スペースシャトルチャレンジャー号の大事故につながったり、新幹線で居眠り運転が発生したりしたこともあります。それほどの重大な問題ではなくても、車の運転で事故を起こす確率も高くなりますから、睡眠不足のツケはいつ自分の身に降りかかってくるか分かりません。

 軽度の睡眠時無呼吸症候群の治療においては、横向き寝が推奨されます。この場合も、顔の同じ側にずっと力が加わって顔の変形が起こることがあるため、毎晩、寝る向きを変えたりすることを勧めます。

 もちろん、寝る姿勢は 仰臥(ぎょうが)() が基本なのですが、舌の力が弱くなったり、口が開いたりして舌が落ち込めば、気道をふさぐ形になり、いびきや無呼吸につながってしまいます。その解決方法として、舌や口周りの筋力アップが得られるあいうべ体操で、「いびきが減った」「無呼吸検査が改善した」という声は珍しくありません。横向き寝もあくまでも応急処置と考えて、エクササイズや食生活の改善で生活習慣改善に取り組み、健康な体を取り戻したいものです。(今井一彰 みらいクリニック院長・内科医)

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今井 一彰(いまい・かずあき)

 みらいクリニック院長、相田歯科耳鼻科内科統括医長

 1995年、山口大学医学部卒、同大学救急医学講座入局。福岡徳洲会病院麻酔科、飯塚病院漢方診療科医長、山口大学総合診療部助手などを経て2006年、博多駅近くに「みらいクリニック」開業。日本東洋医学会認定漢方専門医 、認定NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長、日本加圧医療学会理事、息育指導士、日本靴医学会会員。

 健康雑誌や女性誌などに寄稿多数。全国紙、地方紙でも取り組みが紹介される。「ジョブチューン」(TBS系)、「林修の今でしょ!講座」(テレビ朝日系)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)、「ニュースウオッチ9」(NHK)、「おはよう日本」(同)などテレビやラジオの出演多数。一般から専門家向けまで幅広く講演活動を行い、難しいことを分かりやすく伝える手法は定評がある。

 近著に「足腰が20歳若返る足指のばし」(かんき出版)、「はないきおばけとくちいきおばけ」(PHP研究所)、「ゆびのば姿勢学」(少年写真新聞社)、「なるほど呼吸学」(同)。そのほか、「免疫を高めて病気を治す口の体操『あいうべ』」(マキノ出版)、「鼻呼吸なら薬はいらない」(新潮社)、「加圧トレーニングの理論と実践」(講談社)、「薬を使わずにリウマチを治す5つのステップ」(コスモの本)など多数。

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