文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

今井一彰「はじめよう上流医療 あいうべ体操で元気な体」

医療・健康・介護のコラム

熊本地震の南阿蘇村で肺炎死がゼロだった理由とは?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 震度7の大地震が日本観測史上初めて2回続けて起きた、2016年の熊本地震から5年がたちました。震央に近い熊本県益城町で観測された揺れの大きさは、東日本大震災を超えて国内観測史上最大となるほどの規模でした。

熊本地震の南阿蘇村で肺炎死がゼロだった理由とは?

 震源地である断層から100キロ以上離れた、私の住む福岡でも連日連夜、続く余震で眠れないほどでしたから、被災された方々の心中はいかばかりだったでしょう。

 ところで、阪神淡路大震災や東日本大震災において震災直後の肺炎が死亡数(災害関連死)をかさ上げしましたが、熊本県南阿蘇村では一人も肺炎死で命を落とすことがありませんでした。そこには、上流医療の大きな柱である歯科医療従事者の尽力がありました。なぜ彼らは肺炎を制圧できたのか、そこには学ぶべき素晴らしい前例があったからです。

東日本大震災で示された口腔ケアの効果

 災害後には特に高齢者の肺炎が増加することはよく知られており、平常時の約9倍に上るという調査もあるほどです。ところが東日本大震災では、100人を超える高齢の入所者がいながら、一人も肺炎死を起こすことのなかった施設がありました。気仙沼の特別養護老人ホーム恵潮苑です。物資の供給が限られる中、歯科医師たちはとにかく 口腔(こうくう) ケアを徹底することにより、この難局を乗り越えました。口腔内の細菌が減り、肺炎の大きな原因である 誤嚥(ごえん) 性肺炎を起こすことがなかったからです。

 私の友人で歯科医師の太田秀人さんは、東日本大震災では自分の診療所を休診にし、福岡から支援に駆けつけ、現地での診療に従事しました。しかし、行政機能が崩壊した被災地での活動はとても難しかったといいます。活動を終えて後に、恵潮苑などでの事例報告から、震災後2週間以内に高リスク者へのきちんとした口腔ケアが実施できれば災害関連死を減らせるということを知り、もっと歯科医師として貢献することができたのではと悔しさを心に留めました。

南阿蘇村の避難所、施設で口腔ケア

 くしくもその5年後、その思いを形にする機会が訪れました。そうです、熊本地震です。太田さんは震災の7日後に南阿蘇村に入りし、多くの仲間と活動を始めました。避難所のみならず、東日本大震災では見逃されがちだった介護施設においても、活動当初から被災者の口腔状態の情報を集め、他職種へ幅広く伝えました。

 阪神淡路大震災では、災害関連死の24%が肺炎によるものでした。熊本地震後の熊本医療センター(熊本市)では、前年同期と比べて肺炎患者数は倍増しました。九州とはいえ、まだ4月で夜間早朝は寒い時期。特に南阿蘇村はたくさんの湧水が存在する名水の里として知られ、標高も高く冷えるため、多くの肺炎の増加が心配されました。

 ところが、なんと外部支援活動が行われた1か月の間では、わずか1人が肺炎になったのみで、肺炎による災害関連死はゼロでした。これは医療、保健活動が災害関連死を減らした成功例といえるでしょう。

歯科衛生士とともに、熊本地震の現地で診療に従事する太田さん(右端)

歯科衛生士とともに、熊本地震の現地で診療に従事する太田さん(右端)

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

imai_kazuaki_200-200

今井 一彰(いまい・かずあき)

 みらいクリニック院長、相田歯科耳鼻科内科統括医長

 1995年、山口大学医学部卒、同大学救急医学講座入局。福岡徳洲会病院麻酔科、飯塚病院漢方診療科医長、山口大学総合診療部助手などを経て2006年、博多駅近くに「みらいクリニック」開業。日本東洋医学会認定漢方専門医 、認定NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長、日本加圧医療学会理事、息育指導士、日本靴医学会会員。

 健康雑誌や女性誌などに寄稿多数。全国紙、地方紙でも取り組みが紹介される。「ジョブチューン」(TBS系)、「林修の今でしょ!講座」(テレビ朝日系)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)、「ニュースウオッチ9」(NHK)、「おはよう日本」(同)などテレビやラジオの出演多数。一般から専門家向けまで幅広く講演活動を行い、難しいことを分かりやすく伝える手法は定評がある。

 近著に「足腰が20歳若返る足指のばし」(かんき出版)、「はないきおばけとくちいきおばけ」(PHP研究所)、「ゆびのば姿勢学」(少年写真新聞社)、「なるほど呼吸学」(同)。そのほか、「免疫を高めて病気を治す口の体操『あいうべ』」(マキノ出版)、「鼻呼吸なら薬はいらない」(新潮社)、「加圧トレーニングの理論と実践」(講談社)、「薬を使わずにリウマチを治す5つのステップ」(コスモの本)など多数。

今井一彰「はじめよう上流医療 あいうべ体操で元気な体」の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事