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今井一彰「はじめよう上流医療 あいうべ体操で元気な体」

医療・健康・介護のコラム

熊本地震の南阿蘇村で肺炎死がゼロだった理由とは?

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道具不要、その場でできる「あいうべ体操」も活用

 熊本地震では、口腔内衛生環境を維持するためにあいうべ体操が活用されました。太田さんは、あいうべ体操のやり方を書いたカードを避難者に配布し、その効果を説明しました。水も食料も乏しく、十分な免疫力を保持できない、がれきなどで居住域の衛生状態が保てない中、ともかく肺炎を減らさなければなりません。そのためには歯や舌のブラッシングで 歯垢(しこう) などの付着を防ぎ、唾液で口中を潤すことが大切です。

 道具も使わず、その場ですぐに実行できて、人づてに簡単に口腔衛生を伝えられるものとして、あいうべ体操に白羽の矢を立てたのです。舌を出し入れすることにより、唾液腺のポンプ作用で唾液が流出します。また舌圧を取り戻すことにより、口を閉じやすくなり、結果として鼻呼吸を促します。避難所やがれきの街のような、ほこりっぽい場所でも鼻の空気清浄機能により肺へ送られる空気の質は改善されます。

多職種で成し遂げた成果

 もちろんこれらは、太田さんのような歯科医師、歯科衛生士のみの力で成し遂げられたわけではありません。医師、看護師、栄養士、理学療法士、言語聴覚士、ソーシャルワーカー、介護職など多種多様な立場の人々が関わった成果です。

 太田さんは当時のことを振り返りながら、こう話します。「災害で衣食住を失い、愛する人の直接死という絶望の淵に追い詰められてしまえば、誰もが、口の中に潜む細菌や関連死という悪魔の存在を忘れてしまうのは仕方がないことです。しかし、『口からも災害関連死は防ぐことができる』という東北での学びを、私たちも熊本地震で多職種が連携して実践し、確信することができました。身につけた知識を日頃から実践し、継続することが最強の備えです」

 気軽に医療機関を受診することができない現状では、やはり病気の予防が一番です。そのために、口と鼻の清潔を保つ上流医療を活用してはいかがでしょうか。(今井一彰 みらいクリニック院長・内科医)

熊本地震の翌年の九州北部豪雨の被災地でも続けられた、あいうべ体操

熊本地震の翌年の九州北部豪雨の被災地でも続けられた、あいうべ体操

現地の口腔機能支援チームが作成した、あいうべポスター

現地の口腔機能支援チームが作成した、あいうべポスター

参考文献 Decision Science for Future Earth 第10章 pp211-217「熊本地震を事例にした健康な生活を支える口腔ケア」

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今井 一彰(いまい・かずあき)

 みらいクリニック院長、相田歯科耳鼻科内科統括医長

 1995年、山口大学医学部卒、同大学救急医学講座入局。福岡徳洲会病院麻酔科、飯塚病院漢方診療科医長、山口大学総合診療部助手などを経て2006年、博多駅近くに「みらいクリニック」開業。日本東洋医学会認定漢方専門医 、認定NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長、日本加圧医療学会理事、息育指導士、日本靴医学会会員。

 健康雑誌や女性誌などに寄稿多数。全国紙、地方紙でも取り組みが紹介される。「ジョブチューン」(TBS系)、「林修の今でしょ!講座」(テレビ朝日系)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)、「ニュースウオッチ9」(NHK)、「おはよう日本」(同)などテレビやラジオの出演多数。一般から専門家向けまで幅広く講演活動を行い、難しいことを分かりやすく伝える手法は定評がある。

 近著に「足腰が20歳若返る足指のばし」(かんき出版)、「はないきおばけとくちいきおばけ」(PHP研究所)、「ゆびのば姿勢学」(少年写真新聞社)、「なるほど呼吸学」(同)。そのほか、「免疫を高めて病気を治す口の体操『あいうべ』」(マキノ出版)、「鼻呼吸なら薬はいらない」(新潮社)、「加圧トレーニングの理論と実践」(講談社)、「薬を使わずにリウマチを治す5つのステップ」(コスモの本)など多数。

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