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リングドクター・富家孝の「死を想え」

医療・健康・介護のコラム

無痛分娩で亡くなった31歳の母親の無念……産婦人科選びは慎重にも慎重に

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硬膜外鎮痛は注入を間違えると心肺停止も

 これまでの報道や長谷川氏の取材、証言を総合すると、長村千恵さんが死亡した経緯は次の通りです。

 まず、無痛分娩ですが、これは麻酔によって陣痛の痛みを緩和し分娩する方法です。もともとは母親になんらかの疾患がある場合などに行われる方法ですが、本人が希望すれば、取り扱っている産婦人科ならすぐに応じてくれます。ただ、保険適用外なので、実施率は5%ほどとされています。

 千恵さんは長女出産後に腰を痛めたため無痛分娩を希望。「硬膜外鎮痛」が行われました。欧米でも広く実施されている方法で、背中の脊髄神経に近い場所に、局所麻酔薬を注入すると、下半身に痛みを感じないようにできます。この際、脊髄を守る硬膜の外側に麻酔薬を注入しなければなりません。万が一硬膜の内側に入れてしまうと、麻酔薬が上半身にも回り、全脊髄麻酔を起こして心臓と呼吸が停止する恐れがあるため、麻酔科医は細心の注意を払います。

麻酔科医ではなく産科医が実施、事故後の対応もできず

 麻酔をする以上、これを行うのは基本的に麻酔科医でなければなりません。麻酔科でトレーニングを受けた産科医が行ってもいいことになっていますが、推奨はされていません。しかし、千恵さんの麻酔を行ったのは、O医師だったのです。O医師は麻酔が下手だったようで、針が硬膜の内側に入ってしまい、千恵さんは全脊髄麻酔になって呼吸と心臓が止まってしまったのです。慌てたO医師は、酸素マスクを付けましたが回復せず、緊急帝王切開で次女を出産。心肺停止となり、別の病院に搬送されました。そこで気管内挿管をして呼吸を取り戻しましたが、すでに脳幹が損傷を受けており、脳死状態となり死亡しました。

 O医師は麻酔のミスに加え、適切な救命処置も行えませんでした。このような経過が明らかになったにもかかわらず、大阪地検は2度も不起訴としてしまいました。

医師の技術が低かったが、患者にはそれがわからない

 医者の私から見ると、O医師のレベルは水準以下です。産婦人科医にしても、外科医にしても、一種の技術が必要とされます。とくに外科医の場合、その技術がレベル以下だと、往々にして医療事故を招きます。これは、自動車事故を考えてみれば、同じことだとおわかりになるでしょう。ただし、医師免許は運転免許と違って実地試験がないので、医師の技術レベルは問われていないのです。

 従って、千恵さんの不幸は、麻酔処置や事後対応が可能な麻酔科医がいなかったO医師のクリニックを選んでしまったことです。麻酔科医は麻酔をかけるだけではなく、人工呼吸が必要になった時、気管内挿管の操作にも習熟しています。

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富家 孝(ふけ・たかし)
医師、ジャーナリスト。医師の紹介などを手がける「ラ・クイリマ」代表取締役。1947年、大阪府生まれ。東京慈恵会医大卒。新日本プロレス・リングドクター、医療コンサルタントを務める。著書は「『死に方』格差社会」など65冊以上。「医者に嫌われる医者」を自認し、患者目線で医療に関する問題をわかりやすく指摘し続けている。

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