宮脇敦士「医療ビッグデータから見えてくるもの」
医療・健康・介護のコラム
新型コロナの流行で、子どもの気管支炎や肺炎、胃腸炎での入院数が激減 なぜ?
新型コロナで「医療崩壊」は起きたのか?
新型コロナウイルスに関して、私達が行ったビッグデータを用いた研究のお話をしましょう。
2020年に新型コロナウイルスが流行し始めた頃、厳しい外出制限や医療機関の休止などによって医療提供体制が大きく乱れました。「医療崩壊」も懸念されました。特にその影響が、社会的に弱い集団、例えば子どもなどに対して及ぼされるのではないかと危惧されました。
では実際、どのくらい「医療崩壊」が起きていたのでしょうか。
この問いに答えるには、一つや二つの病院のデータを用いてもできません。なぜなら、その病院にたまたま患者さんが受診せずに他の病院に移ってしまっただけかもしれないからです。
それを乗り越えて、「医療崩壊」の真実に迫るには、多くの病院からデータを集めて、そのような「ばらつき」を小さくして分析する必要があります。
そこで、私たちは多くの病院から入院データを集めている企業と協力して、全国272の大規模病院の入院の傾向を観察することにしました。全国の入院患者数の14%ほどにあたります。
新型コロナ以外の感染症が減少 緊急の手術や処置が必要な受診は減らず
全体の入院患者数は、2020年3~5月の過去3年の平均と比べて、約40%の減少でした。入院理由別では、気管支炎や肺炎、胃腸炎で顕著に減少していました。
これらは、マスクや手洗いなどの感染予防対策や、外出自粛で人混みを避けたことなどによって、新型コロナウイルス以外の感染症が減少した可能性を示唆しています。また、外傷の減少は、緊急事態制限で外に出る機会が減り、事故に遭う確率が減ったことを反映していそうです。
一方で、鼠径(そけい)ヘルニアや虫垂炎、食物アレルギーなど、緊急の手術や処置が必要な疾患の減少は目立ちませんでした。
特に、虫垂炎はポピュラーな病気ですが、放置すると死に至ることのある重篤な疾患です。これらの入院が減っていないということは、受診控えもしくは入院制限が、本当に大事な疾患の治療にはあまり影響を及ぼさなかった(少なくとも子どもでは)可能性を示しています。入院中の死亡数も、変化はありませんでした。
新型コロナウイルス感染症流行の第1波の時には、すぐに治療が必要な疾患が治療されない、という意味での「医療崩壊」は、少なくとも子どもでは、なかった可能性が高いと考えられます。
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子どもの一部疾患での入院が減ったのは、病院の余力が落ちたことと、病院が怖いものという認識が強まって、軽症での新規受診や入院(念のため入院を断わるケース)が減ったせいではないでしょうか? マスクをしたり外出を減らしたことで、短期的には気管支炎などの感染症が減ったことが中長期的に免疫の形成にどのような影響を与えるか、経過を追っていく必要があります。
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