佐藤純の「病は天気から」
医療・健康・介護のコラム
春に増える「うつ」「不眠」 寒暖差、低気圧の接近に注意…予防法は?
特定の季節に発生して、季節的流行の形をとったり、死亡率が高くなったりする病気を季節病といいます。春の花粉症、夏の熱中症、秋のぜん息、冬のインフルエンザや狭心症は代表的な季節病です。私が専門としている慢性痛も季節性があって、春、梅雨、秋に悪化しやすくなります。
春の季節病として忘れてならないのは精神疾患です。寒暖差が激しい日もあるなど、気候も落ち着かない時期でもあります。たとえば、最高気温が低い日、日照時間が少ない日、低気圧の接近日などが、うつ状態の発症頻度を高めるとの報告があります。また、精神疾患の新規入院患者数に関する月別資料に基づく調査では、春先から夏にかけて多くなるとされています。このことは社会的な影響の異なる国でも、北半球と南半球でもほぼ同じであるといいます。
自律神経の緊張が意欲の減退、イライラを
私の気象病外来でも、天候が安定しない春先には痛みが強くなるだけでなく、精神的な不調を訴える患者さんが多くなりますし、うつ病以外では、不眠の患者さんが増えるように思えます。これらのことから、気分障害の発生や悪化と、春特有の気象条件の間に、何らかの因果関係があることは確かでしょう。
もちろん、社会的、心理的な面からみても、春には新学期、新年度の新しい生活が始まり、新しい人間関係も作られていくことで、変わっていく環境に心と体がまだ慣れていないということがあります。こうした気候と生活環境の激しい変化は、心と体への負担の原因となります。心身への負担は自律神経を常に緊張させることになるので、体調不良や意欲の減退、イライラを引き起こし、うつ病を発症しやすくなってしまうものと考えられます。このような精神的な不調が、間接的に痛みを悪化させることもあり、慢性痛のコントロールを上手に行っていくには精神的なケアも重要であるといえます。
人工的な低気圧でネズミの活動量が低下
私たちの研究グループは、気象とうつ病の関係について調べるために、動物実験を行ったことがあります。ネズミが溺れないように気をつけながら、水槽の中で泳がせることを繰り返すと、そのうち泳ぐのをやめて、最初からぽかーんと水に浮かんでいることを選択するようになります。人間に置き換えると、ストレスに対して積極的に何もしなくなる「諦め」の状態です。こうして反応が鈍くなったネズミは、慣れない場所に置いても周りに興味を示さなくなり、ストレス刺激に対して逃避行動をとる回数が減ってしまいます。そして、これらの変化は「抗うつ剤」を投与するとなくなって、もとのネズミの活動量に戻るので、「うつ病のモデル」といえます。
そして、そんなうつ病モデルのネズミを人工的な低気圧の状態に置いたところ、活動量がさらに低下することがわかりました。天気の崩れ(気圧の低下)でうつ病が悪化することを動物実験で再現したことになります。
1 / 2
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。