リングドクター・富家孝の「死を想え」
医療・健康・介護のコラム
コロナ禍で子供の自殺が過去最多の499人、子供は時に現実よりも空想の世界が大きい……鬼滅は激しい世界と知っておきたい

コロナ禍で女性の自殺が増えている件については、すでに、この連載(昨年12月)で述べましたが、子供の自殺も増えていると知って衝撃を受けています。
今月16日、警視庁が発表したところによると、昨年の小中高生の自殺数は、統計のある1980年以降最多の499人を記録したということです。これは前年比にして、なんと100人も増えたのです。
この発表より1か月前、文部科学省でも、子供の自殺増を発表しています。それによると、学校別では、小学生14人(前年比8人増)、中学生136人(同40人増)、高校生329人(同92人増)となっています。高校生では、とくに女子が前年の約2倍の138人と急増しています。
家族で過ごす時間が増えたのが原因
こうした状況は、すでに昨年から指摘されていて、厚生労働省の自殺対策推進室は、その原因について、次のような見解を表明していました。
「コロナ禍で学校が長期休校したことや、外出自粛により家族で過ごす時間が増えた影響で、学業や進路、家族の不和などに悩む人が増加したとみられる」
ただし、長期休校、外出自粛、家族で過ごす時間が増えたことが、子供の心にどのような影響を与えてきたのか、子供の心のうちをまだ具体的にはつかめていないように見えます。
自殺には必ず前兆がある。自殺する子供たちは、自殺前に必ずなんらかのサイン(SOS)を出していると言われています。あとで振り返ってみるとそうなのかもしれませんが、自殺前にサインに気付けないことが多いのも事実です。サインに気付くのは難しいという前提に立って、子供の自殺防止は考えなくてはならないでしょう。
ステイホームで家族の対立が深まった
この分野のエキスパートである精神科医の 羽藤 邦利氏(代々木の森診療所理事長、メンタルケア協議会理事長)に話を聞いてみました。子供の自殺が増えた原因について、羽藤氏は次のように述べます。
「子供の自殺の急増にコロナ禍が関係しているのは確かです。親の在宅勤務、子供の学校閉鎖、不要不急の外出自粛で、家族全員が同時に家にいる時間が増えたことは子供には相当大きな出来事だったはずです」
ステイホームで絆が深まった家族がある一方で、対立が強まった家族があります。「DV」(配偶者などからの暴力)や児童虐待、家庭内暴力の急増などがさまざまな統計データで示されているので、対立が強まった家族が急増しているのは間違いありません。
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自分の経験からいえば、ゲームやネットが親子の対立を深めるのではなく、親子の対立から逃げたくてゲームやネットに費やす時間が増えるのです。因果関係のベースが逆です。その逃げた子どもたちを理解や、共感ある説得ができない親が、自分のキャパシティーを超えている事を理解あるいは受容できずに、子どもに当たり散らして、因果関係が逆に見えるわけです。一方で、「きしむ」という表現は秀逸だと思います。はかないものが理不尽に壊されようとしているさま。大人でも、受け入れや回復に時間がかかる新型コロナの影響。表面上は元気に振る舞っても、心の奥底には傷痕が残っています。嫌な言い方ですが、セーフティーネットと数字に残る自殺予防の可視化も大事ですが、大人でも可視化や表現が困難な不安やフラストレーションをどのように表に出させてあげるか、あるいは、大人への対策も含めて、重要になるのかもしれません。向き合うことも逃避することも対策です。答えは、それぞれの個人と家族、家族の中にしかありません。
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