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山中龍宏「子どもを守る」

 子どもは成長するにつれ、事故に遭う危険も増します。誤飲や転倒、水難などを未然に防ぐには、過去の事例から学ぶことが効果的です。小さな命を守るために、大人は何をすればいいのか。子どもの事故防止の第一人者、小児科医の山中龍宏さんとともに考えましょう。

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ソファに立って歯磨き中の4歳男児が転倒 救急搬送も医師は「経過観察」…別の病院で「頸椎の脇に歯ブラシが」

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 転倒とは、同一平面上でのスリップ、つまずき、よろめきなどによって起きる現象です。子どもの年齢によって、転んでケガをする状況は大きく異なっています。東京都からは、場所別、製品別のヒヤリ・ハット調査「 乳幼児の転落・転倒による危険 」が出ています。今回は、乳幼児の転倒についてお話ししましょう。

ソファに立って歯磨き中の4歳男児が転倒 救急搬送も医師は「経過観察」…別の病院で「頸椎の脇に歯ブラシが」

イラスト:高橋まや

室内では靴下をはかない、大きなスリッパはダメ

 子どもが転んでケガをすると、「親の不注意」と指摘されますが、24時間、子どもから目を離さないでいることは不可能です。それよりも、事故が起こらない環境や製品を作ることを優先するべきです。転倒を予防するためには、生活環境の整備が必要です。

 歩行する平面の段差をなくす、じゅうたんや流しの下のマットを敷かない、じゅうたんを敷くなら全面に敷き、床素材は衝撃が少ないものにします。リビングの床に電気コードや新聞紙、おもちゃや本を放置しないなど、乳幼児が主に生活する空間には、なるべく物を置かないようにします。

 また、部屋の明るさも十分かどうかチェックします。靴下をはいていると床の上で滑ることがあるので、室内でははかない方がいいと思います。大きなスリッパや滑りやすいスリッパを履くのも危険です。階段には滑り止めをつけ、階段の昇降時は、転んでも支えられるように大人が子どもの下側を歩くか、手をつなぐようにします。床に水がこぼれたら、すぐに拭くなどの配慮も必要です。床に落ちたポリ袋や食べ物で滑ることもあります。風呂場は水気や洗剤などで床が滑りやすくなっているので、特に注意が必要です。通園路の転倒防止のためには、雪や氷を速やかに取り除くことも必要です。

 これらの対策は、どこの家庭でも行われていると思いますが、転んでケガをすることをすべて防ぐことはできません。そこで、もう少し具体的な対策としては、転んだときの衝撃をやわらげるために、<1>テーブルの角にコーナークッションを付ける、<2>ガラスにぶつかったときの対策として、強化ガラスを使用するか、ガラスに飛散防止フィルムを貼る、<3>階段の下には、詰め物をした軟らかいカーペットや衝撃吸収素材を張っておく、<4>体育館のような活動性が高い場所では、壁にパッドを張り、壁からの突起物は除去する、などがあります。

CTを撮ると頸椎の脇に歯ブラシの先端部が…

 歩けない乳児の場合、どこに行くにも保護者に抱っこかおんぶされているので、保護者が転ぶと乳児も受傷することになります。特に、家庭内の階段では、赤ちゃんを抱っこしているために、大人の視界がさえぎられたり、手すりにつかまることができないために転倒しやすくなります。乳児を抱っこするときは、ミュールなど転倒しやすい靴ではなく、安定感のある靴を履きましょう。

  事例1 :2012年1月、4歳男児。夕食後に洗面所で歯磨きを始めた。その時、母が居間に移動したため、母の後について男児も居間に移動した。1人掛けソファの袖の部分(50センチの高さ)に立って、歯ブラシをくわえていた。泣き声で母が振り向くと、歯ブラシを口にくわえたまま、フローリングの床にうつぶせに転倒していた。あおむけにしたところ、歯ブラシの柄の部分が口から見えており、男児はうなっていた。あわてて、突き刺さっている歯ブラシの柄の部分をつかんで2、3回引っ張った。歯ブラシの先端部分(約3センチ)がなく、口の中には何も残っていなかった。救急車で医療機関を受診し、検査をしたが異物は見つからず、「経過観察でよい」と指示された。翌日、家族が心配して耳鼻科を受診したところ、頭部CT(コンピューター断層撮影)検査にて異物が認められた。手術をして、上咽頭第1 頸椎(けいつい) の脇にあった歯ブラシの先端部(約2.5センチ)を摘出した。

 東京消防庁の救急搬送データによると、歯ブラシに関係した傷害は11年からの約5年間で217件ありました。年齢は1歳が約48%を占め、1~2歳で79%を占めていました。事故の原因は「転倒」が約60%と圧倒的に多く、重症例は3例でした。 1)

 発生状況は、「歯磨き中の転倒」が多く、続いて「歯磨き中に人やものにぶつかる」「踏み台からの転落」となっていました。

 これまで行われてきた注意喚起だけでは事故を防ぐことはできないと考え、産業技術総合研究所では、喉突き事故が起こった場合に歯ブラシによって生じる力を計測し、リスク評価を行いました。その結果、喉突き事故の予防を目的に開発された歯ブラシ以外は、立位からでも座位からでも、転倒した場合には軟口蓋(口内の天井部)に見立てた鶏肉に歯ブラシが突き刺さりました。座位からと立位からの転倒を比較すると、立位からの転倒は、座位からの転倒の約0.9~3.6倍の荷重値が生じていることがわかりました。座位であっても必ずしも安全とは言えず、事故防止のために衝撃吸収性能を備えた歯ブラシが有効であることがわかりました。

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山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。キッズデザイン賞副審査委員長、内閣府教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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