がんのサポーティブケア
医療・健康・介護のコラム
抗がん剤治療の副作用による末梢神経障害 正座をした後のようなしびれが手や足に 症状が長引くことも
平山泰生・東札幌病院血液腫瘍科部長に聞く
がんのサポーティブケアの連載4回目は、「抗がん剤治療に伴うしびれなどの末梢(まっしょう)神経障害」(CIPN)がテーマです。どんな症状がどれくらいの間続くのか、症状を和らげるためにどんな治療が行われているのかなどについて、東札幌病院血液腫瘍科部長の平山泰生さんに聞きました。(聞き手・田村良彦)
――抗がん剤の治療で、しびれなどの末梢神経障害が起きるのはなぜですか。
抗がん剤は、がん細胞の増殖を抑えるのが目的ですが、正常な細胞にも若干の悪い影響を及ぼします。たとえダメージを受けても、たとえば髪の毛をつくる細胞であれば、再生してまた髪が生えてきます。
これに対し、神経細胞は生まれたときから入れ替わることのない細胞で、壊れても再生する能力がありません。このため、抗がん剤によって傷つけられると、長い間、障害が残ってしまいます。
――末梢神経障害が起きやすい抗がん剤はありますか。
一つは、白金(プラチナ)の成分が入った抗がん剤です。代表的な薬には、シスプラチンやオキサリプラチンなどがあります。
もう一つは、神経細胞の中で物質の輸送を行っている微小管を傷つける抗がん剤です。代表的な薬としては、ビンクリスチンや、パクリタキセルなどのタキサン系の薬があります。多発性骨髄腫の薬のプロテアーゼ阻害剤も微小管障害の原因になります。
さまざまな種類のがんの治療によく使われる抗がん剤であり、多くのがんの治療で神経障害が問題になります。
ジンジンというしびれや痛み 年単位で続くことも
――どんな症状が出るのでしょうか。
ジンジンというしびれや、軽い痛みを感じる場合もあります。正座を長くした後のしびれが、足だけではなく手にも起きる感じだとよく言われます。
――どれくらい続くのですか。
抗がん剤治療のクール(回数)が積み重なっていくにつれて、最初は軽かった症状が徐々に強くなっていくことが多いです。
抗がん剤治療が終わると、ゆっくりと良くなっていきますが、そのスピードには大きな個人差があります。数か月で治まったという患者さんもいらっしゃれば、年単位かかったという方もいます。
――抗がん剤による末梢神経障害の診断基準はありますか。
はっきりしたものはありません。神経障害を起こしうる薬を使っていて徐々に手足のしびれが起きたら、それはCIPNであろうと判断します。神経障害の程度を測定する機械もありますが、かなり特殊なもので、大学病院などで研究用に使うことはあっても、通常の診療では使いません。
――治療法は確立されているのでしょうか。
確立された標準治療と言えるものはありません。一般的な末梢神経障害という病名では、保険適用されている薬がありますが、「抗がん剤による末梢神経障害」そのものに対して適応とされている薬はありません。標準的な治療として自信を持って薦められるものは、残念ながら今のところありません。
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