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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

医療・健康・介護のコラム

あのとき、家族で分けた小さなおにぎりを忘れない

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避難所でアワビやタラの芽を食べた思い出

あのとき、家族で分けた小さなおにぎりを忘れない

あのときと同じおにぎりを配っていた千葉裕樹さん

 その後、着の身着のまま避難所での生活が始まった及川さんは、市役所でおにぎりを配布していることを聞き、取りに行きました。当初は救援物資も少なく、食料は限られていましたが、地域の仲間が持ち寄った海産物を焼き、山で採ったタラの芽をゆでて食べ、夜になると家を失った地域の仲間とお酒を飲んで宴会をしたといいます。及川さんの奥さんは「あのころはなんだかみんなハイテンションでしたね。でもそうしてないと落ち着かなかったのかも」と話します。

 避難所での食の格差があったことは、 以前のコラム でもご紹介しましたが、3月11日の黙とうをした後に気仙沼市内湾地区の商業施設「ないわん」を訪れたら、「小さなおにぎりを家族でわけたこと」を忘れないために、「あのときと同じ大きさのおむすび」を配っている男性に出会いました。気仙沼地域開発株式会社の千葉裕樹さんでした。私も一ついただきましたが、それは手のひらの半分にも満たない大きさでした。「3・11食の記憶プロジェクト」と題し、「食によって震災の記憶をつなぐ」というコンセプトのもと、昨年7月にオープンしたばかりのこの施設のテナント会が企画したものでした。

あの日、計り知れない絶望と不安のなか、
もらったおにぎりの味がすごくおいしくて、本当にありがたくて、
なのに悲しくて、どこか悔しくて涙した・・・。
震災の風化は、そこに住む人々の記憶の風化なのかもしれない。
もう一度、思い出してほしい・・・あの時のおにぎりの味と、あの時の思いと
そして、生きているということを・・・。

(同会のポスターより)

災害時に「食べること」が生きる原動力になる

 及川さんのお話や、小さなおにぎりを通して感じたのは、非常事態であっても、家族や地域の方と食糧を準備して一緒に食べることは、混乱した日々を生き抜く原動力になるということでした。もちろん、精神的ショックで食欲がない方もいらっしゃったと思います。私も発災直後はショックと余震への恐怖によって食欲がまったく湧かず、料理をする気にはなれませんでした。

 しかし、「土鍋でごはんを炊いてみよう」「冷蔵庫にあるもので豚汁を作ってみよう」と気持ちに変化が表れたのは、「ちゃんと食べよう、そして今私にできることをしよう」と切り替えることができたからだと思います。気持ちが変わると、食べるためにいろいろと工夫することを楽しめるようになっていきました。

 先日、長期保存食のパンを試食しましたが、とってもしっとりとしていて、かつてのパサパサした「保存食」とは隔世の感がありました。度重なる大きな震災をきっかけに、長期保存食の味やバリエーションも日々進化しています。数年に1度、「保存食を食べる日」「鍋でご飯を炊く日」を作って、電気を消して小さな懐中電灯の明かりだけで食事をすることでも「防災への意識」を高めることができると思います。(在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子)

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塩野崎顔2_100

塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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