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Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」

医療・健康・介護のコラム

早寝早起きの習慣が招きやすいワナとは

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 こんにちは。精神科医で睡眠専門医の三島和夫です。睡眠と健康に関する皆さんからのご質問に、科学的見地からビシバシお答えします。

 年を取ると、自然に早寝早起きになることが多いですが、その理由をご存じでしょうか? 実は、ある生活習慣が早寝早起きを加速させてしまい、時には早朝覚醒など不眠症を引き起こすこともあるのです。

睡眠時間が短くなるうえに…

早寝早起きの習慣が招きやすいワナとは

 朝早くに目覚め、家族の中で誰よりも早く郵便受けから朝刊を取り出したり、散歩をしたりすることが日課になっているお年寄りをよく見かけます。高齢になると早寝早起きになるのは当たり前と思われていますが、中には夜も明けないうちに早く目覚め、二度寝をしたくてもできず、悩んでいる方も少なくありません。

 実際、不眠症はすべての世代で見られますが、高齢者には寝つきに困ること(入眠困難)は少なく、途中で目覚めたり(中途覚醒)、朝早くに目覚めたり(早朝覚醒)することが圧倒的に多いことが知られています。高齢者の不眠の特徴については、2018年のコラム『 「朝早く目覚めて二度寝できない」「夜中に何度もトイレに」…加齢とともに出てくる睡眠への不満 治療が必要なケースとは? 』でも解説しました。

 では、そもそも、なぜ高齢になると、早朝覚醒が増えてしまうのでしょうか? それには大きく二つの原因があります。

 第一の原因は年齢とともに睡眠時間が短くなるためです。人間の睡眠時間は生後から徐々に短くなります。子どもの頃は8時間でも9時間でも眠れていたのに、中年、壮年、老年と年齢を重ねるごとに睡眠時間は短くなり、70代に入ると日々の睡眠時間の平均は6時間を下回るようになります。当然ながら同じ時刻に寝床に入っても、若い頃より早く目覚めてしまうのです。

 たとえ睡眠時間が6時間前後まで短くなったとしても、朝6時近くまでは眠れるはずです。ところが高齢者の場合には、これに早寝が加わります。これが第二の原因です。夜9時頃に就床すれば、夜明け前に目が覚めるのは必然です。当たり前のことなのですが、これに気づかず、朝早く目が覚めて困った、困ったとこぼす方が少なくありません。夜9時から朝7時まで寝続けられるのは小学生まで、と心得ましょう。

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疲労感と睡眠は異なる

 早寝をする理由は、「疲れを感じる」「面白いテレビ番組もなく、やることがない」「目がしょぼしょぼして本も読めない」などさまざまです。ただし就寝時刻が早すぎると、まだ交感神経が活発であったり、睡眠に必要なホルモンが分泌されていないなど質の良い眠りを取るための体の準備ができていなかったりします。そのため、就床時刻が早いと中途覚醒も増えてしまいます。疲労感と睡眠は異なるのです。

 いったん早朝覚醒に陥ると、日の出とともに太陽光を浴びることが増えます。早朝に明るい光が目に入ると体内時計の時刻が早まり、過度の早寝早起きが悪化することが知られています。逆に早寝をすると夜間照明を浴びる時間が短くなります。夜間に浴びる照明には体内時計を遅らせる効果があるのに、その機会を逸してしまうのです。このことは昨年11月のコラム『 スマホのブルーライトは、善玉にも悪玉にもなる 』でも紹介しました。つまり早起きが早寝を招き、早寝が早起きを加速させる悪循環に陥ります。

 これでお分かりになったと思いますが、冒頭に書いた「ある生活習慣」とは早寝のことです。早寝と早起きは「ニワトリと卵」の関係にあるんですね。早朝覚醒でお悩みの方は。必要以上に早寝をしないことも解決の糸口になります。(三島和夫 精神科医)

 

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三島和夫(みしま・かずお)

秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授

 1987年、秋田大学医学部卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本生物学的精神医学会理事、日本学術会議連携会員。著書に「不眠症治療のパラダイムシフト」(編著、医薬ジャーナル社)、「やってはいけない眠り方」(青春新書プレイブックス)、「8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識」(共著、日経BP社)などがある。

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