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武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

「自傷するとスッキリする」と話す高2女子 無理にやめさせてはいけない理由

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携帯のメモに「私は価値のない人間」

 通院を始めて3か月が () ちました。実家に戻ってから、明日香さんの自傷はほとんど見られなくなりました。診察室では、自分の気持ちを語ってくれるようになりました。

 「高校は、私よりも勉強のできる人たちばかりです。中学校までは勉強ができることが自慢でしたが、今ではその自信もなくなってしまいました。私は価値のない人間で、生きていてもしょうがない」

 と話しながら泣き出しました。

 お母さんは、
 「これまで、親に心配をかけたことのない子でした。高校に入学し、順調に生活しているとばかり思っていました。私には、学校のことを一切話さない子で、突然、自傷するようになってとても驚きました。私たち夫婦は、明日香にとても期待していたのだと思います。明日香はそれに応えようと必死だったのだと思います。家に戻ってからは、夫も私も、明日香に十分休養してもらうつもりでいます」
 と話してくれました。

 通院を始めて6か月が経つと、明日香さんの自傷は見られなくなり、家族と笑顔で会話することが多くなりました。その後、明日香さんは通信制高校に転学しました。現在はカウンセラーを目指して、心理学系の大学で勉強しています。

自殺から自分を守る手段

 明日香さんの自傷は、苦しい気持ちをうまく表現できずに抱え込んでしまい、誰かに助けを求めることもできなかった状況から生じたものです。

 そんな状況の子どもは、自傷をすることによって、苦しさやつらさから解放され、安心感を得ることがあります。一時的にですが、自分の抱えている葛藤から逃避することができるわけです。また、自傷は「自殺から自分を守る手段」という意味合いもあります。ですから、なかなかやめられないのです。

 一番大事なのは、自傷をやめることではなく、「自分の手に負えない問題を抱えたら、誰かに相談するのも正しい選択肢なんだ」と、彼女たちにわかってもらうことです。相談することは、恥ずかしいことでも、自分が負けたことでもないのです。

 初めのうちは、彼女たちの自傷を無理やりやめさせないほうがよいでしょう。自傷をストレスへの対処方法としてとらえ、自傷以外の方法を、相談相手と一緒になって見つけ出す作業を繰り返すことで、彼女たちは、自傷から少しずつ離れることができるでしょう。(武井明 精神科医)

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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