武井明「思春期外来の窓から」
医療・健康・介護のコラム
制服は着るのに登校できない…原因を知りたがる大人、話さない子ども
私たち大人は、思春期の子どもたちのこころに何か不調が生じると、すぐにその原因を探ろうとします。しかし、当初は、子ども自身にも、原因がよくわからないことが少なくありません。それなのに、大人は早く原因を見つけようと必死になり、子どもに根掘り葉掘り聞いてしまうのです。
朝になると腹痛が表れ
翔太君(仮名)の家は、家族で食堂を経営しています。小中学校を通しておとなしい子でした。
高校入学後の翔太君は、夏休み明けから、朝になると腹痛を訴えて学校を休み出すようになりました。内科で診察を受けましたが、消化器の異常はありませんでした。そのため、高校1年の10月、お母さんと一緒に思春期外来を受診しました。
初診時の翔太君は、ほとんど話をしてくれませんでした。お母さんによると、毎朝、制服を着ることはできますが、その後に腹痛が出現してトイレに長時間こもってしまい、出かけられなくなるということでした。
原因探しに熱心なお母さん
お母さんは、
「翔太の不登校の原因は、何なのでしょうか。学校で何か嫌なことがあったのかと、何度も聞きましたが、答えてくれません。私は毎朝、欠席の電話を学校にかけることが恥ずかしくてしかたありません。それで、朝は何とか登校させようとして励ましているのですが……」
と訴えました。
主治医は、お母さんに対して、翔太君に登校刺激を与えず、今は見守ることが大切であると伝えました。そして、不登校の原因探しにお母さんが熱心になることで、翔太君を追い詰めてしまうことも説明しました。
「一度言われたらわかるのに」
通院を始めて2か月後がたちましたが、翔太君は登校することができません。しかし、診察室の翔太君は、
「お母さんはすごくうるさい。毎朝、どうして登校できないのかと、同じことを何度も言ってくる。一度言われたらわかるのに」
と、お母さんに対する不満を口にするようになりました。
通院3か月。翔太君の不登校は依然として続いています。高校からは、出席日数や単位が足りないため、進級は難しいという連絡がきました。
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