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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

近視化だけではない 「ゲーム障害」(ゲーム依存症)…子どもへの影響、どう対応すれば

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近視化だけではない 「ゲーム障害」(ゲーム依存症)…子どもの目に影響を与える問題、どう対応すれば

 コロナ禍で、自宅にいる時間が増加し、それに伴ってスマートフォンやインターネットに依存する人たちが増えています。

 前回のコラムでは、そうした環境は、子どもの目に明らかに影響を与えるというお話をしました。

 しかし、問題は近視や内斜視にとどまらないようです。

 世界保健機関(WHO)は2019年、疾病分類に「ゲーム障害」(ゲーム依存症)を新たに加えました。ここでのゲームとはインターネットゲームなど画面で行うゲームのことで、ボードゲームやカードゲームは対象になっていません。

 精神疾患の一つとして正式に位置付けた病気で、診断基準によれば、主に下記の(1)~(4)のすべてにあてはまる期間が12か月以上続く場合、「ゲーム障害」と呼びます。思春期の男性に多くみられますが、診断に年齢や性は加味されません。

 (1)ゲームの頻度や時間をコントロールできない
 (2)ゲームが生活の最優先事項になっている
 (3)ゲームにより日常生活に問題が起きている
 (4)問題が起きているにもかかわらず、ゲームを続ける

 「ゲーム障害」によって懸念される医学的問題としては、学習への影響、運動不足、昼夜逆転(体内リズムの不調)、人間関係の不和や破綻、不安、いらいら、不眠、暴言といった精神面の問題が挙げられます。

 最近、発達障害の一つである「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」を抱える子どもにゲーム障害が多くみられ、両者の間の高い関連性を示す研究がいくつか出てきました。

 こう記しますと「ゲームをやりすぎると発達障害になるのか」などと思う方が出てきそうですが、それは間違いです。

 ADHDの原因は十分にはわかっていませんが、主に胎生期から出生直後にかけて構成される脳内の神経伝達のアンバランスや、これに遺伝的、環境的要素が複雑に絡んでいるようです。ゲームをたくさんしたから、親のしつけが悪いから起きるというような、後天的要素はほぼないというのが定説です。

 ADHDでは情動に関与する前頭葉のドーパミン(一種の快楽や達成感に関わる物質)の神経伝達が不十分なため、ゲームのような快楽でドーパミンを補給しているとの説があります。これがADHDでゲーム障害が多いことの説明の一つになっています。

 これが真実なら、いわば自己治療をしているという解釈もできます。すると、ある種の治療薬物の急な断薬時に離脱症候群が発現するのと同じように、無理にゲームを禁じることでADHDの諸症状を強くさせる可能性も心配しなくてはいけません。

 なんでも健常者の物差しで強引に決めてしまうと、発達障害の人たちには生きにくい、酷な環境を提供することになることにも配慮しなければいけないでしょう。

 ゲームには障害があるからと、直ちに悪者にするのではなく、依存してしまう状態が長く続くと、その子どもが、いずれ社会の中でその人らしく生きてゆくのに支障が生じることが問題なのだ、と考えることが大事です。

 ですので、楽しいことはいいことだけれど、こういう欠点もあるのだよと説明し、家庭内ルールを決めることが最も大切です。

 そして、ルールを厳密に守らせることのみを目標とせずに、守ることができたら加点するくらいのゆったりした対応が望ましいと、私は考えます。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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